54.乱数の女神
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春。それは出会いと別れの季節。桜舞う学園にも、その時は訪れる。
などとは言うが、高校2年生の彼らにとってはあまり関係のない話。精々が後輩ができる、といった程度だ。
彼らが一喜一憂するのはまた別の問題な訳であって。
「今年は真琴と同じクラスになれるといいけどなぁ」
「どうだろうね。哲也は運に見放されてるから」
「お前が言うかよ。乱数ほとんど引けねえ奴が何言ってんだか」
「乱数は消すべきだと思うんだ。僕は完全実力主義を推すよ」
揃って運の無い親友同士―――真琴と哲也は、クラス発表に祈りを捧げていた。なんだかんだと言うが、二人とも互いが一番の友人だと理解しているからである。それに、月奈と同じクラスであるかどうかも。好意はさておき、彼を手助けする存在は貴重なのだ。
なお乱数云々は完全に真琴の私怨である。格ゲーが主戦場である真琴がソシャゲに手を出した際、乱数が上振れないと倒せない敵相手に下振れ続けるという沼にハマったことがあり、それ以来乱数を呪い続けている。
そんな乱数の女神に見放された男は、昇降口に大きく張り出されているクラスの名簿を見て心の底から安堵する。
「やったな真琴!今年は同じクラスだぞ!」
「あれだね、マイナスとマイナスをかけたらプラスになるってやつ」
「マイナスなのはこれきりにして欲しいけどな。しっかし月奈も美波も一緒かよ。こりゃあ騒がしくなりそうだぜ」
「そんなこと言って嬉しそうな顔してるじゃないか。あ、島乃井くんも高槻さんも一緒だ。哲也より嬉しいかも」
なんでだよ、と哲也は憤慨する。もちろん互いに冗談を言い合っていることを理解しているのでポーズだけなのだが。
教室へ向かうまでも注目の的になっており、どういうわけか隣にいた哲也の方が疲弊していた。普段から視線には慣れているはずだが、自分たちのために道を開けられるのはさすがに初めての体験だったからだろう。
なぜなら今日から新学年で、後輩たちも入学してくる。そして真琴は元々学校中で噂になっていた存在。後輩にそれが知られていてもおかしくはない。
しかしここまで何度も名前を聞かれているのに、その度に真琴はシラを切っていた。後輩からしても、どう見ても本人なのにそう言われてしまっては引き下がるしかなかった。
妙に長く感じた教室までの距離。ようやく到着したと思えば、去年とは違うクラスの仲間たち。真琴に興味を抱いていない者など皆無に等しかった。
「えーと…おはよう?」
「真琴くんおはようっ!今年も同じクラスだねっ!」
「今年もよろしくね、美波」
「おはよ~真琴くん。またあたしと一緒で嬉しい?そこのところどうなんだよ~」
「嬉しいに決まってるよ。去年は月奈に色々助けられたからね。また頼りにしてるよ」
「~~~っっ!笑顔ズルい……」
真琴の笑顔に破壊されたのは月奈だけではない。他のクラスメイト、たとえ去年まで同じクラスだった者でもがっつり心を撃ち抜かれていた。
真琴に見えないように後ろを向いて顔をりんごのように紅くする月奈。何となく蚊帳の外のように感じて少しイラっときた哲也は、ちょっとした仕返しを敢行する。
「月奈さんや、好きな人から頼りにされる気分はどうですかな?ああでも、今のを見て他の女子たちも落ちてしまったみたいですがね。こりゃライバルも山のように」
「うっさいバカッ!!」
「いでぇっ!?ちょっとからかっただけじゃねぇか…。本気の蹴りかまさなくてもいいだろうが…」
「何?もう1発欲しいって?」
「言ってねえよ!?助けてくれ真琴っ!俺は今、魔王に襲われている!」
「ちょっと何言ってるか分からないな。月奈、やっちゃっていいよ」
スパァン!と小気味良い音が教室に鳴り響く。哲也は苦悶の表情を浮かべながらお尻を抑えていた。なんて間抜けな体勢なんだ。
どうせ哲也が余計なことを言ったんだろう。そうでなきゃ月奈はあそこまでやらない。短い付き合いだけど、月奈がとても優しい女の子だって知ってるから。本人には絶対言えないけどね。
あ、そうだ。島乃井くんと高槻さんにも挨拶しなきゃ。…と思って振り向いたらすぐ後ろにいた。
「おはよう山倉くん。また一年間よろしくね」
「琴くんおはー。……ねぇ、あれどしたん?」
「びっくりした…。おはよう島乃井くん、高槻さん。あれは見るにたえないアホの残骸だよ」
「誰が残骸だ、誰が!まだ死んじゃいねえよ!」
「アホの部分は否定しないんだね…」
真琴は仲間に囲まれ、また騒がしい日々が始まっていく。
ただ、奥手な二人の想いが実るのはまだ先になりそうだ。
注:まだまだ続きます




