53.いつか
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「ひどい目にあったぁ……」
お化け屋敷から出てきてげっそりとした表情の月奈。それでも真琴の手を離さないのは一体何の意地であるのか。
真琴は苦笑しつつ、水でも買ってくるよ、と一度その場を離れる。ベンチに座り込んだ月奈は、そこでHINEの通知が来ていることに気付く。メッセージを送ったのは親友だった。
『どう?順調?』
「おかげさまで…っと。あの子のことだし、どうせてっちゃんと一緒に来てるもんだと思ったんだけどねぇ」
『がんばれ!!』
「…美波は本当にすごいなぁ。自分は失恋したばっかだっていうのに、普通はすぐ他人のこと応援できないでしょ」
「なに笑ってるの?」
美波のメンタルの強さを再確認したところで、ペットボトルの水を持った真琴くんが戻ってくる。笑っている理由は美波のためにも話せないし、適当にごまかすしかないんだけど。
「なんでもなーい。お水ありがとね」
「このぐらいお安いご用だよ。僕のせいで怖がらせちゃったしね」
「…真琴くんのその僕のせいでーってやつ、やめた方がいいと思うよ。そんなんじゃいつまでも幸せになれないし、もっとポジティブにいこうよ」
「そういうものかな……」
「そういうもんだよ。よしっ、もう落ち着いたし次のとこ行こ?」
あたしもちょっとだけ勇気を出して、真琴くんの手を握って引っ張っていく。どこに行くかなんて全然決まってないんだけどね。握り方も変えてみる。普通に握るんじゃなくて、お互いの指を絡め合うような形に。
真琴くんも気づいたと思うけど、何を言われても絶対離さないし変えない。…うー、やっぱ恥ずい!でもこれくらいしなきゃだよね、デートだし!
「えーと…月奈、この手は…?」
「離れたくないからっ!」
「え?」
「じゃなくてぇ!迷子にならないように!ここ広いし…いっぱい人いるし!…うぅ…分かれ、ばかぁ……」
もう無理ぃ!迷子とかなるわけないし苦し紛れすぎる……。でもワンチャン信じてくれたり?
「真琴くん?顔そらしてどしたの?」
「だって………今の月奈が可愛くて…」
「…真琴くんってときどき正直になるよね。や、別に悪いとかじゃないんだけどさ。こう、まっすぐ伝えられると照れるってゆーか…」
「……………………………」
「……………………………」
二人の間に沈黙が流れる。これで何故付き合っていないのか。この沈黙でさえも側から見ればただの恋人同士のやり取りであるというのに。
互いに話し出せない空気の中、沈黙を破ったのはくぅ、という可愛らしい音だった。
「えーっと、先にお昼にしようか?」
「はぃ…………」
「ここには食事できるところは1カ所しかないみたい。そこに行ってから何食べるか決めようか」
「あたしはなんでもいいんだけど、真琴くんは食べたいものとかないの?」
「これといってないかな。メニュー見てたら勝手に決まると思うし、未来の僕に丸投げするよ」
結局、メニューを見ても何でもよかったので適当にハンバーグを頼んだ。これが意外と美味しくて、最近の遊園地はこういうところにも力を入れているのかと驚いた。
お腹を満たしたところで、広大な遊園地の中を散策する。アトラクションだけじゃなくて、小さい子どもが遊べるような広場もあったり、よく分からないけどなんかすごいオブジェがあったりした。夜になるとイルミネーションの一部になって光るらしい。
アトラクションにはあまり乗らなかった。月奈が絶叫系が苦手なのは分かってるし、一回お化け屋敷に付き合わせてしまったからだ。あ、メリーゴーランドには乗った。僕は外から写真を撮っているだけだったけど、月奈が楽しそうだったからよかった。
日も暮れてきて、最後にこの遊園地のシンボルでもある大観覧車に乗ることになった。夕方は人気があるみたいで、長蛇の列ができていた。
「すごい列だね。やっぱりやめる?」
「ううん、今日は時間あるからだいじょーぶ。ふつーに質問なんだけどさ、真琴くんはこういう待ち時間の暇ってどうやって潰すタイプ?」
「1人だったらスマホをいじってるけど、誰かと一緒だったら適当に話すかな」
「解釈一致すぎる。真琴くんって結構誰かと話すの好きだよね」
言われてみればそうかも。静かなのも好きだけど、月奈や美波と関わるようになってからは話している時間の方が好きだな。そっちの方が楽しいし。哲也は…そうでもないかな。
そんなことを話していれば、あっという間に僕たちの順番になる。
「うわぁ、観覧車とか久々すぎて緊張してきたー…。高いとこ大丈夫かなぁ……」
「いつも屋上にいるんだから今さらじゃないかな。風とか吹いてるし」
「屋上は揺れないじゃん!てかよく考えたらジェットコースターもお化け屋敷もダメだし、観覧車も不安になってきた…」
「大丈夫だって、僕がついてるでしょ?ほら、早く乗らなきゃ」
怖がる月奈を宥めて観覧車に乗り込む。幸い、月奈が心配していたような揺れはほとんどなく、安定感があるのですぐに慣れた。
観覧車の窓から見る景色は絶景だった。向かい合って座る月奈も、夕焼けに目を奪われていた。
すると、園内のあちこちでイルミネーションの点灯が始まるのが見える。さっきのオブジェももう一つのシンボルだと主張するように光り輝いていた。あれはイルミネーションの一部どころか中心だったようだ。
光に照らされる月奈の表情も。
「綺麗だね……」
「んー?それはどっちに言ってるのかなぁ〜?」
「どっちもだよ。イルミネーションも、月奈も」
「…ほんと、顔色くらい変えたらどうなの。そんなキザったらしいセリフ、あたしなら恥ずかしくて言えないね」
「やめてよ。急に恥ずかしくなってくるから」
「あっはは!……ね、隣に座ってもいいかな」
僕は座っていたところを少しずれて、その誘いに応える。この雰囲気、なぜだか緊張してしまう。
「ありがと。…あたしね、美波から聞いたんだ。まさかあの子が振られるとは思ってなかったけど」
「…そうだね。罪悪感がないわけじゃないよ。僕が変わったきっかけは間違いなく美波だし、それを否定するつもりもない。じゃあなんで付き合わなかったんだって、そう言いたい気持ちも分かる」
「そこまでは言ってないけどさ。美波を振るってことは他に好きな人がいるか、恋愛に全く興味がないってことでしょ?だからちょっとだけ気になっちゃって」
どうしてそんなことを?そう聞くより先に月奈が口を開いていた。
「や、別に変な意味とかじゃなくて。もし好きな人がいるなら誘ったのも迷惑だったかなー、なんて…」
「迷惑なんて思うわけないよ。たくさん友達がいるなかで僕を選んでくれたんだから。それに…」
臆病な僕にはまだ、好きな人に誘ってもらえたから、なんて言えはしない。
だから、もう少しだけ待っててほしい。この気持ちはいつか、最高の形で伝えてみせるから。
「それに?」
「…楽しかったから。月奈と一緒に来られてよかった。またどこかに遊びに行こう」
「もっちろん!うーん、次はお買い物とかでもいいかもねえ」
「気が早くないかい?」
「知りませーん。誘ったのはそっちだし?言質、取ったから」
にひっ、と笑う月奈。真琴はまだまだ振り回されそうだと、そんな未来を少し楽しみにしていた。




