51.お誘い
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だがしかし、月奈も中々のヘタレであり、真琴を気軽にデートに誘えるほどの度胸など当然持ち合わせていない。トークルームを開いては閉じ、また誘おうと思い立つもすぐに恥ずかしがって誘えずを繰り返していた。
このままでは進展はない。それは月奈も理解しているのだが、いかんせん何もかもが初めてであるためどう誘ったらいいか分からないまま既に一時間が経とうとしていた。
月奈は少し気分転換に外に出ようと玄関の扉を開ける。そしてすぐにその足を止める事態に出くわしてしまう。
「あれ、月奈?どうして…あ、ここ月奈の家か。いつの間にかこんな遠くまで来てたんだ」
「真琴くん、その格好…」
「ああいや、なんだか身体を動かしたくなってさ。ちょっとだけ走ろうと思ってたんだけど、気づいたら結構走ってたみたい。月奈はお出かけ?」
「そういう訳じゃないんだけど…あたしも似たようなもんかな。ずっと家にいても息苦しいし、外の空気でも吸いに行こうかなーって」
何の偶然か、軒先にはジャージ姿の真琴が。普段とは少し違うその格好に月奈は思わずドキッとしてしまう。走ることを想定してか、メイクもしていなければ髪もピアスも最低限見れる程度に抑えられている。月奈が泊まりに来ていた時の方が整っていたくらいだ。
しかしこれはチャンス。文面で誘えないのならいっそのこと直接誘ってしまえばいい。一種のトランス状態に陥っていた月奈はありえない思考の下で口を開く。
「ねえ真琴くん、春休み中って暇?実は遊園地のチケットもらったんだけど美波が行けないみたいでさ。…どうかな?」
「暇だけど、本当に僕でいいの?それこそ美波がダメなら高槻さんとかいると思うんだけど」
「あの子だけは絶対ダメ。絶叫とか心霊系ばっかり行くから」
「ああ…そういう…。でも意外だなぁ、ホラーが苦手なのは知ってたけど絶叫も苦手だなんて」
それを聞いて月奈は自らの失敗に気付く。これではまるで自分がそういった類のアトラクションが苦手だと言っているようなものではないか、と。実際苦手ではあるのだが好きな人に弱い姿を見せたくないという、まあ見栄を張っているだけである。
どちらにせよ後には引けない。幸いにして真琴も嫌がるような表情はしていない。月奈は恥ずかしい気持ちを抑えつつ、改めて真琴をデートに誘う。
「それで…どう?嫌なら全然いいんだけど……」
「まさか。僕で良いなら喜んで行かせてもらうよ」
「ほんと?あっ、ランニング邪魔しちゃったよね。いつ行くかは後で決めよ」
「いやいや、邪魔になんてなってないよ。でも今は汗もかいてるし、この状態で月奈と話すのはやめた方がいいね。じゃあ、連絡待ってるね」
そう言って走り去っていく真琴を見つめながら、心底安堵した様子の月奈。あれだけどう誘うかを悩んでいた割には、終わってみれば意外に呆気ないものだと感じていた。そもそもからして、外に出たのは気分転換のためであってまさか真琴に遭遇するなど思おうはずもないのだから。
しかし気分は有頂天。デートに誘えたということだけでも奥手な彼女にとっては大きな前進だ。だがここで焦ってはならない。
何と言っても彼女が恋してしまったのは元大人気モデルで、どこにライバルが潜んでいるとも知れない。事実、月奈は秋華の存在を全く知らなかったりする。
それでも月奈は、周りより一歩も二歩も進んだ関係にある。そう自分に言い聞かせて、日程を決める前から遊園地について調べて段取りを考えていた。…この時点で既に焦っているとも言えるかもしれないが。
一方の真琴も、突然の誘いに驚きそして歓喜していた。
男女が2人きりで遊園地に遊びに行く。よほど捻くれた考えを持っていない限り、誰もがデートだと答える状況だ。捻くれていない真琴は当然そう思っているが、好意を持ってくれているのかに関しては別問題。距離を縮めるチャンスだと思いつつも、そう思っているのは自分だけなのではないかという不安が渦巻いていた。
元々慎重―――優柔不断ではない―――な性格である真琴は、今のような状況に陥りやすいことを自覚している。なので矯正しようと常に意識しているのだが、それが上手くいっていない現状も理解している。
ただ恋に故するか、今回ばかりは全力で楽しもうと珍しく意気込んでいた。これが空回りしなければ良いのだが、はてさて。
やがて月奈から連絡があり、残り少ない休み期間でなんとか予定を合わせることに成功する。この日から真琴は妙にテンションが高かったが、そういう日もあるかと何故か誰も気にしなかったとか。




