50.乙女チック
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激動の高校生活初年度を終え、短い春季休業期間に入った真琴たち。とはいえ真琴のやることは普段と変わることはなく、バイトに行ったり空いた時間で哲也と遊んだり。だが当然、月奈を誘って遊びに行くなんてことはしていない。なぜならば真琴にそんな勇気はないからである。
加えてたった今、月奈側にも真琴と会いにくい事情ができてしまったのだ。原因は月奈の自室でくつろぐ美波だった。
「…………………マジで?」
「うん。真琴くんに告白したけどフラれちゃった」
「信じらんないんだけど。真琴くんってほんとに男?」
「ねえ月奈。私、気づいてるよ」
「…ここでとぼけたってしょうがないよね。でも美波をフるような人なのにあたしにチャンスなんてあるのかな…」
美波の心情を表すならば、「こいつらマジか」である。正直なところ、彼らが両想いだというのは割と周知の事実であり、クラスメイトや他の女子が真琴に向ける視線は偶像崇拝的な部分が大きい。
それもそのはず、月奈も美波に負けず劣らずの美少女である。勝ち目が無いと思わされるのも仕方のないことだった。
その事に気づくわけもない月奈は、ライバルが星の数ほどいると思い込んでいた。
「私も協力する!月奈と真琴くんには幸せになってもらわなくちゃ!」
「気持ちは嬉しいけど、しばらくは気まずいかもねー。向こうも美波のこと意識しちゃうだろうし。なんかするにしても学校始まってからかなー」
「そっかー。あ、そういえばさ、月奈って真琴くんからホワイトデー何もらったの?」
「マカロンだけど」
「じゃあ脈ありじゃんっ!私見てたけど、他の子には普通のお菓子ばっかり渡してたもん!それってわざわざ月奈のために選んでくれたんだよね!ね!」
そう…なのかな。確かに真琴くんも美波と似たようなこと言ってたけど、やっぱりそうなのかな?だとしたら嬉しいけど…。
私ばっかり得しちゃってる感じ。バレンタインには感謝の思いも込めたけど、結局それは伝えられなかったし。というかてっちゃんが余計なこと言わなければ…思い出したら腹立ってきた。
「ふふーん、私には分かるよ。月奈って私よりも乙女チックだもんね」
「はぁ?何言って」
「そこの棚の少女マンガ、うちより多いし」
「うっ」
「真琴くんの笑顔にすぐ見とれちゃうし」
「ううっ」
「ほんとはお姫様に憧れてるのも知ってるよ?」
「それは何で知ってんの!?あんたそんなキャラじゃなかったでしょ!?」
月奈の問いに答えを返すなら、吹っ切れたというのが一番近い。美波も知らず知らずのうちに恋愛に囚われていたのだろう。
要するに、美波はよく見ていたのだ。真琴も、月奈も。お姫様云々に関しては月奈が分かりやすいだけなのだが。
予想外の角度から刺された月奈は、ベッドに飛び込んで小さくなってしまった。美波は、そんなキャラじゃないのは月奈もじゃないかな…と若干思いつつも、これ以上は可哀想なので口には出さなかった。
それはそれとして、美波がわざわざここまで来たのはただ振られたことを伝えるためだけではない。二人を応援すると決めたからには背中を押さなければいけないという、一種の使命感によるところが大きい。これだけ条件が整っているというのに、互いに未だに一歩も踏み出せていないこの状況をもどかしく思っていたのだ。
しかし月奈が先ほど言った通り、真琴としても顔を合わせづらいという部分はある。ならばと美波が思い付いたのは。
「ごめんね?でもこうでもしないと動こうとしないでしょ?」
「それは…そうかもしれないけどさぁ…」
「そんな月奈に良い物があります」
そう言って美波が取り出したのは2枚のチケット。そこには少し遠くにある遊園地の名称が記されていた。
「いやー、パパが会社でもらったけどいらないからってくれたんだけど、私が今行くのはなんか違うし。真琴くん誘って行ってきなよ、ふたりで!」
「マジ無理誘えないって。こんなんほとんど好きですって言ってるようなもんじゃ…」
「うわぁ…ここまでこじらせてるとは思わなかったよ…。遊園地くらいじゃなんにも思わないよー。特に真琴くんは鈍感さんだし」
「それはそれでどうなのよ。でも2人で遊園地…行きたい……」
「あ、私そろそろ帰らなきゃ。じゃあ今度感想聞かせてねー」
美波はチケットを渡すだけ渡して帰り道を歩く。本日の主目的を達成したことで、その表情は満足げだった。
なお、美波の言ったことはほぼ全てが嘘っぱちである。父親にもらったというのも全く持って真実ではない。
今回のシナリオを裏で描いているのは勿論どこぞの親友である。遊園地のチケットは偶然懸賞で当たったペアチケット。それも2組。
この男、どこまでもいい性格をしているのだった。




