5.正ヒロインと陰キャ男子
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真琴と美波が、近所どころか同じ建物に住んでいることが判明した翌日。
二人が会話していたことなどすぐに忘れ去られ、真琴は平穏な日々を取り戻していた。
いつものように屋上で昼食を摂ろうと教室を出る。クラスメイトのうちの一人の視線が真琴の方を向いていることには、当然気付いていなかった。
残暑は過ぎ、冷たく乾燥した風が吹き始めた屋上。真琴はそろそろ別の食事場所を探すべきかと、割とどうでもいいことを考えていた。
そんな彼の下に、まさか来客があるとは思いもよらなかっただろう。
「やっほー山倉くん、お邪魔するよん」
「…柳沢さん?どうしてここに?」
「ちょっち気になることがあってねぇ〜。あたしはキミに興味があるんだ。美波にてっちゃん…灰崎 哲也と仲良くなった経緯も知りたいしね」
「なんで哲也のこと……」
「さあ、なんでだろうねぇ〜。そんなことより、ウチの美波がお悩みみたいでさ。同じく悩める少年たるキミなら、いいアドバイスが聞けるかなぁ〜ってね」
全然そんなことで済ませていいことじゃない…。僕と哲也の関係は誰にも言ってないし、ゲーセン以外で一緒にいることは絶対にない。
どこか不思議なオーラを纏っている人だけど、まるで自由な猫みたいだ。しかもこの人多分、僕の秘密に気づいてる。
なら隠し事は無駄かな。なんとなく、この人は簡単に人に話すようなことはしないと思う。だから大丈夫だろう。
真琴は自らのマスクに手を向けて、おもむろにそれを下げる。そして眼鏡も外してその素顔を露わにする。
「柳沢さんが知りたいのは、こういうことかな?」
「半分アタリで半分ハズレ。なるほど…美波が隠したがってたのはこれかぁ…。あの子、意外に面食いなんだねぇ」
「何の話?」
「いやいや、独り言だよー。山倉くん、なかなかイカしてるなあって」
「ありがとう、でいいのかな?」
「そこは素直に喜んどきなよ。美少女からのお褒めの言葉だぞ〜」
まるで心がこもってない言葉。本当にこの人は掴みどころがないな。一周回って怖くなってきた。
僕、この人ちょっと苦手かもしれない。
「それで、神木さんへのアドバイス、だっけ」
「そうそう。あの子、山倉くんのことがえらく気に入ったみたいでさ。キミのことで悩んでるみたいだから、親友としては直接なにか言ってあげてほしいと思うわけですよ」
「難しいお願いだなぁ…」
「というかあたし、二人の間に何があったのか全く知らないんだよね。だからあたしからの伝言じゃ意味ないでしょ」
言いたいことは理解出来る。たぶん神木さんは、『どれだけ僕に迷惑をかけないか』を考えているはず。
そのせいかは分からないけど、今日はいつもより元気がない気がした。襲われた翌日のはずの昨日は全く普通だったというのに、状況的に僕が原因だよね…。
「分かった。放課後、目立たないように伝えてみるよ」
「お願いねー。そうだ、ちょっとスマホ出して」
「?」
「ほいほいほい、からのススイのスイっと」
言われるがままにスマホを取り出すと、ものすごい速度で操作され、いつの間にかメッセージアプリのHINEで友達登録されていた。
「えっと、これは?」
「ん?HINEだけど。クラスのグループ、入ってなかったっしょ?あたしの個チャも登録してあるから、なんかあったら気軽に頼ってね〜」
「あ、うん。ありがとう…」
「いいってことよ〜。それじゃね〜」
………行ってしまった。本当に自由で不思議な人だな。言いたいことだけ言って、あとはこっちに丸投げか。
それに神木さんが悩んでるって、具体的に何に悩んでるのかも分からないんだけど。弱ったなぁ、これじゃアドバイスのしようがない。
そうこう考えてるうちに予鈴が鳴ってしまったので、教室に戻らなければならない。どうにか神木さんと話す必要があるんだけど、生憎と連絡先の交換はしていない。
なんか状況的に、柳沢さんに脅されてるみたいだな。『解決しなきゃ素顔をバラすぞー』って。
………やりかねないな、あの人。
「さて、どうするかな…」
本格的に頭の痛い思いをすることになった真琴。
一方、その問題の種を蒔いた月奈は、真琴と美波の様子から状況を大まかに把握していた。
「まさかあんなのがウチのクラスに隠れてたなんてねぇ」
あたしの予想通り、山倉くんはかなりのイケメンだった。素顔を隠してたのは何か理由があってのことなんだろうね。
そこは割とどうでもいい部分だ。問題は、彼が美波に及ぼしている影響について。
あたしも美波と出会ってからまだ半年くらいしか経ってないけど、あの子のカリスマ性は異常だ。たった半年で上級生同級生問わず、告白された回数は数え切れない。
そしてそれを全て断ってきた彼女が、初めて興味を持った男子。なかなか少女漫画脳な部分がある美波だから、それっぽい状況になってコロっと落ちてしまった可能性はある。
だけど今日話した感じ、山倉くんは悪い人じゃない。何かを企んでるとか、少なくともそういう風には感じなかった。
でも美波はどうしても光り輝いてしまう。ひっそりと隠れていたい山倉くんにとって、美波の存在は割と死活問題だったりするんだろうね。
彼には悪いけど、今回は運が悪かったってことで。
あたしも彼のこと気に入ったし、ちょーっとだけ頑張ってもらおっかな。
あと、それとは別に山倉くん、どっかで見たことある気するんだよねー…。




