4.一軍女子とご近所さん
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ここで立っていても仕方ないので、とりあえずマンションの中に入る。
このマンションはセキュリティがしっかりしていて、オートロックに加えて暗証番号と指紋認証もないと入れないようになっている。
二人別々に入る意味もないから、僕だけ鍵を開けて一緒に入っていく。
ちなみにタワマンではない。部屋は狭くてもいいからセキュリティはしっかりしたところにしなさい、と親に言われて、学校からも近かったここがピッタリだったんだ。
家賃と学費は親に払ってもらっているけど、その分毎月少しずつ親に返すようにしている。昔稼いだ分だけでは足りなかったから、両親には感謝しかない。
エレベーターに乗り込んで、自分の部屋がある階のボタンを押す。
「神木さんは何階?」
「6階だよ。山倉くんは3階なんだね」
「うん。僕がここに住んで半年くらい経つけど、まさか一回も会わないとは…」
「大きいマンションじゃないのにね。でもちょっと嬉しいかも」
「嬉しい?なんで?」
「だって学校で話せなくてもここなら目立たないでしょ?これからは好きなだけ話せるねっ!」
〜〜〜っっ。その笑顔は反則だって……!
なるほど、学園のアイドルなんて言われるわけだよ。みんなこの笑顔にやられたんだな。
こんなこと言われて、断る男はどこにもいないよ。
そしてエレベーターの扉が開く。お話しようと言われて最初は気乗りしなかったのに、いざ終わると軽く寂しさを覚えてしまう。
幸い、彼女はまた話そうと言ってくれている。普段だったら受けない誘い。でも神木さんならいいかなって、そう思ってしまうんだ。
「じゃあ神木さん、またね。学校で話すようなことはあんまりないと思うけど」
「そんな寂しいこと…ううん、分かった。山倉くんの迷惑にならないようにする」
「いやっ、全然迷惑とかじゃないよ。神木さんといるのは楽しいし、少しくらいなら」
「ほんと!?えへへ…約束だからねっ!」
僕のどこを気に入ったか知らないけど、どうやらしばらくは彼女から逃げられなさそうだ。
どうせ長くは続かないだろうし、たまにはこういうのも悪くないかな。
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真琴と別れて帰宅した美波はベッドに制服を脱ぎ捨てる。
彼女の部屋は全体的に可愛らしいもので埋め尽くされていて、棚には少女漫画ばかり。
美波は着替えた後、思い出したかのように制服をハンガーにかける。そしてベッドに寝転がり、この二日間の出来事を振り返っていた。
(山倉くん、すごかったなぁ……)
見た目もそうだけど、ものすごく強かった。大人の人相手だったのに全然怖がらないで、正面から立ち向かってた。
私はなんてバカなんだろう。芸能事務所のスカウトだなんて言葉に釣られて、あんなところまでノコノコ着いて行って。
もし山倉くんが来てくれなかったら、今頃どうなっていたかは考えたくもない。
あの時の山倉くんは、まるで王子様のようだった。ちょろい女かもしれないけど、ずっと少女漫画みたいなシチュエーションに憧れてたから、すごくときめいてしまった。
でもそれだけじゃなくて。教室での姿がずっと気になってたの。なぜか目が離せなくて、彼には何かあるって思ってた。まさか眼鏡とマスクの下があんなに、あんなに………。
「イケメンだったなんてぇ〜〜!!」
何あれ!?私なんかよりモデルさんみたいじゃん!目はおっきくてぱっちりしてたし、近くで見たら顔もちっちゃくて肌も綺麗だし!
み、見た目だけで判断してるわけじゃないからね!?山倉くんがすごくいい人だっていうのは分かったし、目立ちたくない理由もなんとなく察した。
私はバカだけど、空気を読む力はあると思ってる。みんながケンカしてるとこなんて見たくないもん。
だから今まで山倉くんには話しかけられなかった。みんなが山倉くんのことをそういう風に扱ってたし、山倉くんも積極的に関わろうとはしてなかったから。
それももうやめようと思う。誰かを仲間外れにするなんて良くないもん。
でも山倉くんは目立ちたくないって言ってるから迷惑はかけられないし……。
「どうしたらいいんだろう……」
人間関係って、難しいなあ…。
そうだ、こんなときは月奈に相談しよう。
「もしもし月奈?」
『美波ー、どったの?』
「えっと、ね。月奈は山倉くんのこと、どう思うのかなーって」
『なになに、恋バナ!?いいねぇ~、この恋愛マスター月奈ちゃんがなんでも教えてしんぜよう』
「ちょっ、まだそういうのじゃないから!?」
『へぇ~。まだ、ねえ』
相談する人、間違えたかも…。月奈って、自分は恋愛興味ないくせに、他人の恋バナは大好きなんだもん。
それに山倉くんのこと、まだよく知らないし。世の中には付き合ってから知っていけばいいって言う人もいるけど、私は人に騙されやすいから、結構慎重になっちゃうんだよね。
今まで告白してきた人の中にもそういう人はいたけど、下心が見え見えの人ばっかりで全部お断りしたし。
「もー、茶化さないでよ」
『あはは、ごめんごめん。で、山倉くんをどう思うか、だったよね』
「うん。他の人の意見が聞いてみたくて」
『うーん、表面的な話だけをするなら、ドが付くほどの陰キャ。でも…』
「でも?」
『彼、なーんか隠してるような気がするんだよねぇ』
月奈、やっぱり鋭い。昨日初めて、しかもちょっとしか話してないのに気づくなんて。
だけど隠さなきゃだよね。いくら月奈でも山倉くんの秘密を教えるわけにはいかないもん。
「どうしてそう思ったの?」
『女の勘…って言いたいところだけど、あの眼がね。』
「う〜ん…?月奈の言ってることがよく分かんないよー」
『あー…まあ、あんたは知らない方がいいかもねー。どうにも気になっちゃったし、明日聞いてみよっと』
「それはだめっ!!」
『…そんな焦るようなこと言った?美波、やっぱ昨日なんかあったっしょ。話してみなよ、協力出来ることがあるかもしんないじゃん?』
あー、やっちゃった〜…!月奈は可愛いから目立つし、山倉くんと話してたら迷惑かけちゃうって思ったら口が勝手に動いてた。
月奈はしっかり者だから話しても言いふらすようなことはしないと思う。山倉くんは私に気を遣って、少しだけなら話してもいいって言ってくれたのに、これじゃ全部台無しだ。
でも月奈の声は逃がさないって言ってるように聞こえる。本心から心配してくれてるのは分かるし、これ以上は隠し通せないのも分かってる。
『どうしても話したくないなら無理しなくていいよ。心配しなくても山倉くんにもちょっかい出さないから。でも、また何かあったら今日みたいに相談してよ?』
「…相談したのは私なのに、わがまま言ってごめんね」
『そんな落ち込まなくてもいいって。誰にだって隠し事のひとつくらいあるんだから。じゃ、また明日ねー』
「うん…ありがと………」
美波は通話が切れたスマホをベッドに放り投げ、意味もなく天井を見つめるのだった。




