3.一軍女子とお話しよう
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とても長く感じた一日が終わり、ようやく帰宅することができる。今日はバイトもないし、哲也と遊ぶ約束も入っていない。家でゆっくり映画でも見ようかな。
そう思い学校を出ると、後ろからあまり聞きたくはない声が聞こえてくる。
「山倉くーん!」
「げっ、神木さん……」
「なんで逃げるのぉ!?待ってよ〜!」
いや逃げるでしょ。一言話しただけで目立つのが確定してるんだから、積極的に関わりたい訳ないんだから。
少し走ったところで後ろに振り向くと…………まだいるよ。てかさっきより距離縮まってない?
「待たない!僕は目立ちたくないって言ったよね!」
「私と話したぐらいじゃ目立たないよ!」
「自分の影響力分かってないの!?神木さんは可愛いんだから、それだけで君は注目されてるの!」
「ふえっ!?えへへ、そっかぁ。私のこと、可愛いって思うんだ〜」
「隙あり!」
神木さんが照れた一瞬を突いて、一気に距離を引き離す。これで簡単には追いつけないはずだ。
それにしても神木さん、あまりにも純粋すぎる。だから悪い男に引っかかったんじゃ…。いやいや、関わっちゃダメだ。僕の平穏な高校生活のため、彼女との関わりはない方が好ましい。
ついお節介が出ちゃったけど、彼女の影響力は計り知れないんだ。柳沢さんに認知されたのはまずいかもしれないけど、神木さんから僕への興味がなくなれば問題ないはず。
っと、信号か。早めに青に変わってほしいんだけど…。
「追いついたよ山倉くんっ!」
「うわあぁぁっっ!?」
「そんなに驚かなくてもいいじゃん。ちょっと傷つくよ?」
だってそんなに速いとは思わないじゃん。急に後ろから話しかけられたらそりゃ驚くって。
これ以上逃げられないことを悟ったので、観念して神木さんに捕まることにする。これ以上何かやらかすのは勘弁してほしいところだけど。
「山倉くん、ちょっとお話しない?」
「…内容によるかな。今日は神木さんのおかげでひどい目にあったし」
「あう………ごめんなさい。山倉くんの顔を見たら、つい話しかけたくなっちゃって」
「…まあ、次から気をつけてね」
弱ったな。そんな悲しそうな顔されたら、怒るに怒れないじゃないか。むしろこっちが悪いことしてるような気持ちになる。
反省してるならいいんだよ、うん。
気勢を削がれてしまったので、大人しく神木さんと話そうか。
「それで、話って?」
「あ、いや、特に何かを話したいとかじゃなくてね?もっと山倉くんのこと知りたいなぁって。話したのは昨日が初めてだけど、山倉くんがすごい面白い人だと思ったから」
「………僕なんて、薄っぺらい人間だよ。全然大したことないから」
「むぅ…なら、山倉くんに聞きたいことがあります」
あれ、さっき特に話したいことはないって…。
「山倉くんって、好きな人とかいるの?」
「!?!?ゲホッゲホッ………い、今なんて…?」
「だーかーらー、好きな人はいるの?って聞いたの。もー、さっきから水飲みすぎだよー」
予想外の質問に、飲んでいたお茶が気管に入ってむせてしまう。あと飲みすぎてるのは走って口が乾燥したからだからね。
なんでそんな質問をしてきたのかは分からない。僕の好きな人を知ってどうなるのかって話でもある。
だからといって答えない理由もないけど。
「いないよ。女の人があんまり得意じゃなくて」
「あ…ご、ごめんね?答えにくいこと聞いちゃったよね。あーもう、何やってんだわたしー…」
「謝るようなことじゃないよ。深い事情とかないから。周りにグイグイくる女の人が多くて、ちょっと疲れちゃったってだけ」
「わあー!私グイグイいっちゃってるじゃーん!ほんとごめぇん……」
「いやだから謝らなくていいって。神木さんからは嫌な感じしないからさ」
これは僕の本心だ。今まで出会った女性は下心ありきの人が多かったけど、神木さんはそういうのを一切感じない。むしろ好感さえ持てる。
それが目立っていい理由にはならないけど、素顔を隠したままなら少しぐらい関わってもいいかな。
そう思うくらいには。
信号も切り替わったことだし、家まではもうすぐだ。神木さんも同じ方向みたいだから、僕の家までは一緒に来るみたい。
「なーんだ、山倉くんと帰る方向同じだったんだ。…じゃあ昨日は私と別れたあとに同じ道通って来たってこと?」
「そうだね。今まで通学路で会ったことなかったから、初めて知って驚いたよ」
「いやー、あはは………恥ずかしー…!」
「そういうこともあるから、気にしなくていいと思うよ」
そうこうしているうちにマンションに着いた。確か昨日は反対方向から帰って来たんだよな。てことは、もしかして神木さんとは結構ご近所さん?
「「それじゃあ僕(私)ここだから……………え?」」
僕たちが足を向けた先は同じマンション。ま、まさか………。
「僕たちって、同じマンションに住んでた………?」
「み、みたいだね…。ええ…?そんなことある…?」
「マジか…全然知らなかった………」
衝撃の事実が判明し、世間は広いようで狭すぎるということを認知した二人だった。




