2.一軍女子は誤魔化せない
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そんなことがあって、今に至る。確かに、素顔について黙っててほしいって言っただけで、話しかけないでとは言ってないけど。まさか絡んでくるとは思わなかった。
もちろん、今まで何の接点もなかった僕たちが突然話し始めたら、みんなが不審に思うのも当然のことだ。
「ねえ美波ー、その人…山倉くん?だっけ?こう言ったら悪いけど、美波とは対照的ってゆーか…」
「そんなことないよ!山倉くんは…」
「神木さん」
「あっ…や、山倉くんは落とし物を一緒に探してくれたの。見覚えのある顔だったから、私からお願いしたの」
「ふーん?顔、ねぇ………」
あ、これダメなやつだ。神木さん誤魔化すのが下手すぎる。そもそも僕の顔ほとんど見えてないんだけど。
神木さんと話している女子———柳沢 月奈さんは、唐突に僕に顔を近づけて、ジーッと目を覗き込んでくる。
柳沢さんも神木さんに劣らず整った顔立ちをしているので、そんな人に顔を近づけられると、ちょっと恥ずかしいというか……。
「あの、柳沢さん?」
「ん?ああ、ゴメンねー。確かに山倉くん、イイ眼してるからさー。これならバカでも見分けられるわー」
「ちょっ、月奈!?私のことバカって言った!?」
「実際バカでしょ。前回のテストの最高点、言ってみ?」
「それはちょっと言えないというか言いたくないというか……」
その様子を見て柳沢さんはゲラゲラ笑っている。でも、柳沢さんが言ってることの意味が分からない。僕の眼ってそんなに特徴的なのかな?周りの人には一度も言われたことないけど。
話はそのまま流れたけど、僕の心は落ち着かない。校則でピアスやメイクが禁止されてるわけじゃないけど、あんまり外聞が良くないのも確かなこと。
逃げるように地元から出てきた以上、こっちでも同じ思いはしたくない。だからなるべく目立ちたくないんだ。
お昼休みになったので、購買でパンを買って僕以外に人はいない屋上に向かう。
いつも鍵は開けっぱなしで少し危ないと思うけど、その分柵が高いから簡単に人は落ちないようになってる。
ここなら誰も来ないから、マスクを外して新鮮な空気を吸うことができる。…東京の空気が綺麗かどうかは怪しいけど。マスクを付けてる間はどうしても息苦しいので、実はこの時間が高校で一番の楽しみだったりする。
一人きりの空間で心を落ち着けていると、突然扉がガチャリと音を立てる。先生が来たらまずそうだし、とりあえず隠れなきゃ。
「おーい真琴ー。どうせここにいるんだろー?」
「なんだ哲也か。おどかさないでよ」
「悪い悪い。どうにも大変な目に遭ったって噂になってたからよ、気になっちまってな」
「噂になってたの?別に大したことじゃないんだけどなぁ」
だって僕だよ?完璧なド陰キャムーブかましてる、この僕だよ?だからこそかもしれないけど、それにしたって噂になんかなる訳……。
「バーカ、お前じゃなくて美波だよ。この学校で一番注目集めてんだぞ?誰と話したかってだけで広まっちまうんだよ」
「あ、うん。そりゃそうだよね、あはは…」
「あいつも可哀想だよな……ってどうしたんだよ、急にうずくまったりして。体調悪いか?」
恥ずかしいよ!自分の勘違いが!ある意味体調悪いし、もう帰りたい!
まあ帰れないんだけどね…。親に無理言って一人暮らしさせてもらってる以上、この程度で早退するなんて申し訳ないし。
でもいい気晴らしになった。哲也は違うクラスだからなかなか会えないけど、哲也と話してる時間は嫌なことも忘れられるんだ。
チャイムが鳴って昼休みの終わりが告げられる。僕の事情を知ってる哲也は、万が一にも目立たないようにひと足先に戻っていった。
僕も教室に戻って次の授業の準備をしていると、ふとこちらを向いた神木さんと目が合う。神木さんはパチリとウインクをして、自分の席に座る。やめて!これ以上目立つようなことをするのはやめて!
そして柳沢さんもよく見ている。神木さんのウインクに気づいたようで、興味深そうな眼差しでこちらを見つめてくる。だからやめてって!あなたも結構影響力あるんだから!
はあ…早く授業終わってくれないかなぁ………。
山倉くん…ね。美波の目の付け所は間違ってないと思うよ。てっちゃんとも仲良いみたいだし、実は結構すごい人かも。
それにしてもあの眼、なかなか濁ってたねぇ。よく見たらイケメンぽいし。
「面白くなりそうじゃん♪」
柳沢 月奈は薄く笑って、この先の未来を心待ちにするのだった。




