46.隠し味
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迎えたバレンタイン当日。前日以上に落ち着きのない者も多く、既に貰った者がその姿を嘲笑っているのは学生にとっては風物詩なのかもしれない。
しかし笑えるだけ幾分マシだ。真琴は口に出さないながらも助けを求めていた。
「あ、あの!これ受け取ってください!」
「山倉くん、私のも!」
「あ、ありがとう…」
冗談だと言ってほしい。朝学校に来てからずっとこうだ。校門で待ち構えている人もいれば、下駄箱を開けたらチョコがなだれてきたり。
廊下を歩いていても渡されるし、教室に着いてからもこの有り様。もうカバンがパンパンなんだけど。
正直、今くれた人たちは知らない人ばかりだし、僕が女性が苦手なのはまだ直っていない。だからあんな微妙な反応になってしまうのが少し心苦しい。
しかもまだ月奈からは貰えていない。昨日、あんな連絡があったから期待してたんだけどな…。
いや、一日はまだ始まったばかり。諦めるには早すぎるよね。
そう思ってたらもう放課後。美波と高槻さんには貰ったけど、月奈とは話してすらいない。というか目も合っていない。
月奈ももう帰ってしまったみたいだし、仕方なく帰ろうと膨らんだカバンを持って立ち上がる。教室を出て少しした辺り、ポケットの中のスマホが震えた。
何かと思ってスマホを開くと―――。
『屋上』
送り主は哲也。一瞬でも期待した自分が馬鹿らしい。まあ何かしら直接会わなきゃいけない用があるのだろうと屋上へ向かう。
だけどそこにいたのは哲也ではなく、月奈だった。
「ごめんね真琴くん。もう帰るとこだったんでしょ?」
「大丈夫、今日は帰っても暇だったから。それで、えっと…」
「分かってるんでしょ。ほんとはもっと早く渡せたら良かったんだけど。どうしても二人きりのときに渡したくて」
月奈が恥ずかしげに、可愛らしいラッピングのされた小箱を取り出す。それを見た瞬間、僕は心の底から安堵する。
しかし、月奈はなぜかその場に固まっていた。
「どうしたの?」
「いや、えっと…その、ね」
「?」
「……これ、隠し味が入ってるんだよね。あっ、別にヤバい物が入ってるとかじゃなくてちゃんと味見もしてるから美味しいと思うんだけど…」
焦った様子の月奈は、息継ぎもせずにそう言葉を紡ぐ。でも隠し味なんて使えるほど僕は料理を教えてない。
なら誰かに教えてもらったんだろうけど…まさか。
「月奈」
「ええっと、だからぁ…」
「哲也に何を吹き込まれたんだい?」
「……………………ょう………」
「え?」
「隠し味は愛情!!それだけ!!感想はいらないからぁっ!!」
そう言い捨てて、月奈は行ってしまった。哲也め、何をしたのかと思えばまさか、あ…愛情だなんて…。
…ん?愛情?さすがに哲也の悪ふざけだと思うけど、万が一そうじゃなかったとしたら……いや、それは願望が過ぎるか。
でもこれで脈無しじゃないことが分かった。それだけでも十分だ。
話すようになって半年。月奈の第一印象は自分勝手で自由な人、僕が苦手な部類だと思ってた。それがたった半年でこうも変わるんだから、本当に人間って生き物は分からない。
一緒にいて楽しい。もっと君の笑顔が見たい。君を笑顔にさせるのは僕がいい。前までの僕なら、こんな欲は出さなかった。
それくらい月奈に夢中になってしまっている、そういうことなんだよね。恥ずかしいけど、認めなきゃいけない事実だ。
じゃあ今すぐ告白する?できる訳ない。心の準備もそうだけど、僕たちにはまだ関係値が足りない。もっと月奈のことを知って、もっと好きになる。
そのために出来ることといえば…。
「デート、だよね…」
そういえばクリスマスのとき、秋華先輩が何か言っていた。確か…受験が終わったらデートする、だったっけ。この間無事に合格したって連絡も来たし、お祝いもするけどそれとは別にお願いしてみようかな。
先輩を練習にしてしまうのはなんだか申し訳ない気がするけど、あくまでもお祝い。そう割り切ろう。
屋上から戻ると、そこには哲也が待ち構えていた。よく分かってるじゃないか、僕には問い詰めなきゃいけないことがあるからね。
「よう真琴…ん?月奈はどこ行った?」
「先に帰っちゃった。ところで哲也、あの隠し味うんぬんは君の仕業だね?」
「おう、そうだが…おい待て、顔が怖えぞ。一旦話を聞いてくれ!」
「へえ、何か申し開きがあるのかい?」
「月奈はなんて言ってたんだよ!それだけ教えてくれ!」
仕方ない、口にするのも恥ずかしいけど…。
「その…愛情だって………」
「………ははーん、なるほどな。……やるじゃねえか、あいつ…………」
「おい、何笑ってるんだよ。本当に反省してるの?」
「してるしてる。で、それをもらった感想はどうよ」
「まあ、嬉しいけど…ちょっと待って。やっぱり気づいてるよね」
まあな、と答え、優しい笑顔で見つめる哲也。女性に苦手意識を持っていた親友が、こうして誰かを好きになったのだ、当然といえば当然かもしれない。
真琴はどこか釈然としない気持ちを覚えながらも、この友人はそういう人間だった、と納得する。
それはそれとして、余計なことはするなと哲也がこってり絞られたのは、また別のお話。




