45.チョコ作り
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バレンタイン。それは聖ウァレンティヌスが処刑された凄惨な日であると同時に、愛を守った彼を讃え、恋人たちの祭日と定められた日でもある。
しかし、チョコレートを贈る文化は日本独自のもので、欧米諸国ではチョコレートに限らず様々な贈り物を家族や恋人に贈る日だとされている。
なぜチョコレートなのかは、百貨店の販売戦略などという説もあるが、その話は一旦関係ないので置いておくとしよう。
世の男、特に若者にとって、この日は一種のステータスになる。チョコレートを幾つ貰ったのか、誰から貰ったのか。え、家族から?見栄を張るな、などと言われるまでがセットだったりなど。
多く貰えば貰うほど、彼らにとっては大きな自信になることだろう。
しかしそれは女性とて同じこと。義理チョコ、友チョコ、そして本命チョコ。現在では様々な種類が生まれている中で、やはり特筆すべきは本命。
こうは考えられないだろうか。言葉や文字にせずとも簡単に想いを伝えられる手段が、このバレンタインデーのチョコレートなのではないか、と。
だがそれにはもちろん覚悟が必要。ここにも覚悟を決めた女子が一人。
(本命ったって、あたし料理できないんだけど…)
そう、月奈は料理が苦手である。決して出来ない訳では無いが、長らく姉に任せきりであったこと、他の家事を自らが担当していたこともあって、余計に苦手意識が染み付いていた。
彼女は現在、キッチンに立っていた。家に戻ってきたはいいものの、父は相変わらず忙しく、事情を説明しても姉は帰っては来なかった。つまり今までと同じく出前か出来合いの物を食べるだけ。
しかしこの日だけは特別。せっかく真琴に料理を教えてもらったのだ、ここで使わなければ意味がない。
そこで彼女が助けを求めたのが―――。
「いやなんで俺なんだよ」
「だって暇そうなのがてっちゃんしかいなかったんだもん。協力してくれたらチョコあげるからさ」
「うっわいらねー。だがまあ、真琴のためだってんなら手伝ってやらんこともないけどな。お前、真琴のこと好きなんだろ?」
「そうだけどさ。普通そんなサラッと言うかなぁ?あたしにとっては大事な初恋なんだけどなー」
「え、その感じで?さすがに純情は無理があると思いますよ柳沢さん」
やっぱ頼む相手間違えたかも。なんか料理できるって聞いたから連行してきたけど、そういえば真琴くんより人をおちょくるのが好きなんだった。
しかもこいつ、女子の中では結構人気あるのが許せない。てっちゃんはそのことに気づいてるのにあえて放置してたりするし。女の敵だわマジで。
でも今はこんな奴でも力を借りるしかないんだ。美波には頼れないし、凛ちゃんも自分のチョコ作りで手が離せないって言ってたし。
そんなわけで、目の前には市販のチョコが置いてある。これを溶かして、自分の作りたい形にしていくんだけど。
「んで、どういうのが作りてぇんだよ」
「どういうのって?」
「そりゃあれだろ、チョコマフィンだとかマカロンだとか色々な。真琴、そういうの好きそうだからな」
「あれって家でも作れるの!?初耳なんですけど…」
「少しぐらい調べとけよ…」
仕方ないでしょ、初めてなんだし。いつもならてきとーに市販の安いやつ買って渡してたんだから。でも真琴くんにあげるなら話は違う。
全力で気持ちを込めたものを渡さなくちゃ。それこそチョコなんてモデル時代に山ほどもらってるだろうし、それに負けるようなら渡さない方がマシ。いくら特別な意味があるからって、それが味に上書きされたらなんの意味もないから。
やるからにはとびきり美味しくて印象に残るような、そんなのがいい。キミにはそれくらいじゃないと足りないよね。
「しゃあねぇ、時間もねえし一番シンプルなやつでいいか?」
「お願いします、てっちゃん先生!」
「誰が先生だ、ガラじゃねぇっての。そんじゃまずは砕いたチョコを刻んで―――」
そこからあたしのチョコ作りが始まった。って言っても大したことをしてるわけじゃないと思うんだけど。
刻んだチョコをボウルに入れて、それを湯せんして溶かす。あとは型に流し込むだけ。
なんだか味気ないけど、あたしにこれ以上はムリ。でもそれを察したてっちゃんが提案をしてくれる。
「まあこれだけじゃそこらの女子と同じになっちまう。真琴は学校中から注目の的になってっから、山ほどもらうんじゃねえか?」
「…………ま、そうだよね。でもあたしに難しいことなんかできないよ?」
「そんなことしねえよ。なぁに、ちょっとだけ隠し味を入れるのさ」
「てっちゃんが悪い顔してる………」
月奈は一抹の不安を覚えながらも、真琴のためにそれを飲み込むしかなかった。
勢いでやってしまった事の大きさに気付いたのは、夜になってからのことだった。




