37.陰キャ男子とへそくり
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険悪な空気はどこへやら。聞きたいことが山のようにある月奈は、自身の父を質問攻めにする。一方の孝介もまだ硬いながらも、娘の問いに丁寧に答えていく。
真琴はそんな二人の様子を見届けて、自分はもう必要がないとその場から立ち去ろうとする。
しかし月奈は見逃してはくれなかった。
「ちょっと真琴くん、どこ行くの?」
「僕はもう用済みだからね。後はお二人でゆっくり話してくれればと」
「そうはいかないよ。キミが居なかったらあたしたち親子は離ればなれのままだったんだから。恩人を差し置いて話は出来ないなぁ」
「そうか、君のお陰だったのか。私からもお礼を言わせてくれ。娘と再び家族になれたこと、感謝する」
「そんな大層なことはしてませんって。僕には過ぎたお言葉ですよ」
僕は念のため一緒には来たけど、結局何もしてないからね。気持ちを伝えたのも月奈だし、僕は円滑に進むように最低限の口出しをしただけだ。どこまで行っても僕は部外者でしかないからね。
それでもお礼を言ってくれるのだから、それを断るのはむしろ失礼だ。ありがたく受け取って、そのまま去ろうと思ったんだけど。
「ところで山倉くん、君は娘と付き合っているのかね?」
「……………はい?」
「違うから!あたしと真琴くんはそんなんじゃないし!ただの友達だから!」
「そ、そうか……。月奈が男の子を名前で呼ぶところは初めて見たもので、家にも泊めてもらっているようだったからつい……」
「なんでそのこと知ってんの!?てかあたしのことほとんど知らないくせに!名前呼びくらいするわっ!!」
「どうどう…月奈さんや、落ち着いてくださいな…。今のはお父君に多大なダメージが…」
さすがに火力が強すぎます。お父さん燃えて真っ黒焦げになっちゃうから…。
孝介さんには、お気持ちは分かりますとだけ伝えたい。せっかく仲直りした娘の言葉で、結構ショックを受けてしまっている。
とりあえず月奈は反省しなさい。
それから、今後について少し話し合う。これで月奈も安心して自分の家で暮らすことができる訳だけど、なぜか冬休みの間は僕の部屋に泊まるらしい。
これだけでも既に意味が分からないのに、孝介さんはその後も二人で暮らす許可を出した。なんでだ…。
僕も一応抵抗はしてみたけど、月奈が反対しなかったのと貰えるものは貰っておけという、絶対に使い所の違う理論で押し切られてしまった。
お布団に関しても孝介さんがお金を出すと言ってくれたのだけど、それは流石に断った。長く使う物だし、月奈だけが使うとも限らないのにそこまでしてもらう訳にはいかない。
だけど孝介さんも何かお礼がしたいというので、それならと量販店までの車を出してもらえればとお願いした。ついでに僕も買うのは初めてだから第三者の意見が欲しかったのもある。うちの家族はまだ使い物にならないし。
車の運転は疲れると聞くし少し気が引けたけど、快く受けてもらえたので早速出発する。
車内での話題は、自然と学校生活のことになった。
「山倉くん、学校での月奈の姿はどのような感じか教えてくれないか?恥ずかしながら、最近の月奈のことは何も分からなくてね」
「そうですね………僕の中ではしっかり者のイメージが強いですね。クラスのみんなをまとめていますし、人望も厚いと思いますよ」
「まとめてんのは仕方なくだよ。誰もやらないなら誰かがやるしかないんだから」
「それで出来てるのが凄いって話だよ」
「………あ、ありがと……」
月奈はやっぱり可愛い。美波の影に隠れてるとは思えないほどに。だからこそ、僕なんかと友達でいてくれる理由が分からないんだ。
彼女たちは本来、僕が関わることのなかった存在。あの日、路地裏に意識を向けていなかったら、美波を助けていなかったら、今頃は家でのんびりしていたはず。
前までの僕なら、それを喜んで謳歌していたと思う。いや、今もそれは変わらない。だけどこうして友達が頼ってきたのなら、月奈じゃなくてもこっちを優先していたと思う。
家族の問題とかはもう勘弁してほしいけどね。
目的の量販店に到着し、早速布団のコーナーへ向かう。他のフロアは初売りでかなり混雑していたけど、お正月に布団を見に来ているのは僕たちくらいだった。
なるべく金額を抑えたいところだけど、どれもなかなか良いお値段がする。これでも初売り価格で安いくらいだ。
「結構お高いんだねぇ…。やっぱお父さんに出してもらえば?」
「ううん、いいんだ。これからも使っていく物だし、月奈だけが使うとも限らないから。今すぐに必要なのは月奈だし、月奈の意見というか要望はどんどん言ってもらって構わないよ」
「うーん、意見と言われましても…あ、普段ベッドだしあんまり硬くないやつがいいかなー」
それからフロアを巡りながら店員さんのおすすめを聞いてみたり、孝介さんがお金を出したがるのでそれを必死に断ったりと、意外と楽しい時間だった。
とは言っても布団を買うのにそう時間はかからない。色々見た中で一番月奈が気に入った物を購入することにした。
「ほんとにお金大丈夫…?貯金もあんまないんじゃ…」
「こういう時のためにへそくりを貯めてたんだよね。今日の話し合いがまとまらなかったら、このお金を使って月奈を引き取ろうと思ってたんだけどね。使わずに済んでよかったよ」
「今さらっと凄いこと言ったね!?そ、それ、いくらあるの…?」
「あんまり大声では言えない金額かな。潮谷さんに感謝しなきゃいけないくらいにはね」
ここじゃ言えないけど、具体的には三桁万円ほどある。正直いち高校生が持っていい金額ではないけど、本当に非常時以外は使わないと決めてるから普段もちゃんと働いてるんだ。
ちなみに口座を管理しているのも潮谷さんだ。雑誌の収益から僕の貢献度を見積もって、その分をギャラとは別にへそくり用口座に入れておいてくれたそうだ。それを僕が引退する時に退職金だと言ってカードを渡されたんだ。貰った時は頭が真っ白になったね。
これが僕の切り札だった。その後のことは何も考えてなかったけど。本当に使わないのがベストだったから、穏便に話が進んでよかった。管理者にはいくら使ったかバレるので、潮谷さんに何かやらされる可能性もゼロじゃないからね。
「さすがに同級生に養われるのは勘弁だったわ…。今もそんなに変わらない気はするけど。あ、そういえば食費とかうやむやになってたね。どうしよっか?」
「私が出そう。十万あれば足りるか?」
「いや多いですよ。冬休みもあと一週間ほどですし、月奈の分だけならその半分でもお釣りが来ますよ」
「そういうものか…。普段は外食ばかりで最近の食材の値段が分からなくてな…」
「お父さん料理しないしね。それこそお母さんが居なくなってからすぐは作ってたような気もするけど」
「碌なものが作れず断念した。陽奈にも負担を掛けてしまったし、後で謝罪しなければ…」
そんな一幕がありつつも、無事に目的は達成した。これで僕の平穏な睡眠が戻ってくるはずだ。




