35.正ヒロインと悩みの種
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新年二日目。熟睡が理性を保つことに有用だと気付いた真琴は、すぐに眠りに落ちるという謎の特技を身に付けつつも、無事に朝を迎えることができた。月奈に同じような姿勢で身動きを封じられていたのは見なかったこととする。
この日から街は動き始める。一昨日から約束していたことも、ようやく実行に移せそうであるため、真琴は朝から出掛ける準備を整えていた。
しかし月奈の表情は憂いを帯びていた。
「よし、朝ごはんも食べたし早速行こうか」
「あー…そのことなんだけどさ………」
「要らないとは言わせないからね。僕の今後のためにも買わなきゃいけない物だし」
「や、そうじゃなくって。実は昨日の夜、お父さんから連絡きてさ」
年越し前から言っていた来客用の布団をやっと買いに行けると思った矢先、月奈がそんなことを口にする。
この状況を引き起こし、月奈がお姉さんに劣等感を抱くようになった原因である人物。事情が事情なので深くは聞かなかったけれど、表面的な話だけでもおよそ家族のことを考えているとは思えない自己中心的な性格。
月奈が語っていた限りではそういう人物像が浮かんでくる。もちろん言葉通りではない可能性も十分にありえるけど、今はそれ以外に判断するソースがない。
でもなんで家出から二日も経った今になって連絡してきたんだろう。
「『帰ってこなくても構わないが、私の恥にはなるなよ』だってさ」
「………それだけ?」
「うちの家族にはそれ以上はないからねぇ。お父さんは昔から伝えたいことを短く伝えるだけ。言うだけ言ってそこで話を切っちゃうんだよ」
「それは…」
「遠慮しなくてもいいよ。あの人はもうあたしには興味ないだろうし」
そんなことはない、って言い切りたいけど、僕は直接会ったことはないから否定するのが難しい。
月奈は既に割り切っているような語り口だけど、家族というのはそう簡単に縁が切れるものじゃないんだ。
僕が口を出せる問題じゃないけど、こうしてわざわざ話してくれるんだから、やっぱり思うところはあるんだろう。
僕にも何か手助けできることがあるはずだ。
「月奈はどうしたいの?」
「…正直、あんまり関わりたくないかな。学費を払ってくれたり必要なお金は出してくれるのは感謝してるけど、それも外聞を悪くしないためだと思うし」
「それは親心じゃないかな。月奈をここまで育ててくれたのもお父さんなんでしょ?」
「そうだけど…ありえないよ。お母さんが家を出て行ってから家族らしいことなんて一回もしてないからね。高校の入学式だって来てくれたのはお姉ちゃんだけだし…」
僕が思っていた以上にこの問題は根深いみたいだ。話している月奈の表情が物語っている。彼女の涙を見てきた僕にとって、今の彼女はそれ以上に辛い思いをしているのだと分かってしまう。
…だけど、その辛さを理解してあげることはできない。だって僕は家族のことで悩んだことはないから。
だからこそ共感でも同情でもない、全く違う立場から力を貸すことができる。
「じゃあ、会いに行こう。会って話すんだよ」
「今さら話すことなんて…」
「ある。きっとあるはずだよ。このまま縁を断ち切ってしまったら、君は一生後悔することになる。僕は月奈のそんな姿は見たくない」
「見たくないって……。それ、ただのキミのわがままじゃん」
「お互い様じゃないか。偶には僕のわがままを聞いてくれたって罰は当たらないと思うけど?」
「……ほんっと、かなわないなぁ。分かったよ、お父さんとちゃんと話してみる。でも今日はとりあえずお布団買いに行こ?」
僕もそうしようと思ってたんだけどね。月奈のこと見てたらそうもいかないよ。
「いや、今すぐ行こう。僕もついていくからさ」
「はぁっ!?いやムリムリムリ!まだ心の準備とか全然出来てないしっ!せ、せめてお布団買いに行ってからでも…!」
「ダメでーす。ほら、気が変わらないうちにさっさと行くよ」
「なぁっ!?あたしのマネすんなぁっ!」
僕に出来るのは、ほんの少し背中を押してあげることだけ。別に喧嘩しに行くわけじゃないんだ、いつも通りの月奈なら、きっと何とでもなるさ。
「………ちょい待ち。真琴くんもついてくるって言った?」
「言ったけど。それがどうかした?」
「どうかした、じゃないでしょ!?どう説明すんの!?あんなこと言われた後で、男の家に泊まってました、なんて言えるわけなくない!?」
「確かに。でも月奈は二人きりでまともに会話できるの?」
「それはそうだけどさ………いややっぱムリ。同級生に親と話すとこ見られるのほど恥ずかしいこととかないから」
「えぇ……」
前途多難だなぁ…って思ったけどそれは僕でも恥ずかしいな。電話でもいいけど感情が伝わりにくいし…。
月奈にとっての最適を考えるけど、それは杞憂に終わった。月奈もとっくに覚悟は決まっていたらしい。
「でもそんなこと言ってる場合じゃないよね。お願い真琴くん、一緒にお父さんと戦って」
「もちろん。僕にも焚き付けた責任はあるからね。あと目的は戦いじゃなくて和解だからね?」
「分かってるって。それでも、あたしにとっては負けられない戦いだから」
そう意気込む月奈。うん、この調子なら心配なさそうだね。
でも本当にもしもの時は僕にも切り札がある。絶対に使いたくはないけどね。




