33.陰キャ男子と新たな一年
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真琴が上京してから初めての年越し。突如クラスメイトが泊まることになり、自由奔放な彼女に振り回されつつも、少し前とは比べ物にならないほどの充実感を覚えていた。
しかし彼の新年最初の起床は、思うほど良いものではなかった。
その理由は一つしかないだろう。
「ん……もう朝か…………」
窓が無く光の差し込まない自室で目が覚める。月奈が眠ったあとにこっそり抜け出すつもりだったけど、月奈の悪ふざけに付き合ってたおかげでそのまま寝てしまった。
朝食を作ろうと思い身体を動かすが、上手く起き上がることができない。その原因は、隣で眠っている月奈が僕にしがみついていたからだった。
「いつの間にこんなことに……」
「ん………んぅ…?えへ、まことくんだぁ」
まだ寝ぼけているのか、ふにゃふにゃの声でそんなことを言う。昨日のからかいとは違う、純粋な言葉に思わずどきっとしてしまう。
月奈は蕩けたような笑顔で僕の頬をぺたぺた触っている。どうやら彼女は寝ぼけると幼児退行するみたいだ。
しかしこのままにしておく訳にもいかないので、月奈を起こすことにする。
「起きて月奈。もう朝だよ」
「もうちょっとだけぇ…………………え?」
「おはよう、月奈」
「えぁ…おはようございます……………」
自分の発言に気付いたのか、表情を羞恥に染める月奈。そんなところもまた可愛いと思うけど、さすがに可哀想なのでこれ以上何かを言うことはしない。
時計を見ると既に9時過ぎだったので、簡単にトーストでも作ろうとベッドを離れる。その際、月奈は布団にくるまって顔を隠していた。
お正月とは言っても、僕にとっては普通の朝。特に考えることもせずにトーストに挟むベーコンを焼く。
こうして美味しそうな香りを漂わせておけば、月奈も自然と出てくるだろう。
ベーコンだけでは味気ないので目玉焼きも用意したところで、月奈がリビングにやってくる。心なしか頬はうっすらと紅く見えた。
「朝ごはんできてるよ。出来立てのうちにどうぞ」
「あ、ありがと…。いただきます」
「いただきます」
うん、いつもより出来がいい気がする。目玉焼きを追加して正解だった。月奈の表情も緩んでいるし、喜んでくれたようでよかった。
そのまま食べる姿を眺めていると、見られていることに気付いた月奈と目が合ってしまう。
「あ、えと…美味しいです…」
「ん?ああいや、別に感想を求めてたわけじゃないよ。本当に美味しそうに食べてくれるなぁって」
「だってあたし料理できないし。お姉ちゃんが出てってからは外食とかレトルトばっかりだったから、手料理なんて久しぶりなんだもん」
「最近はレトルトも美味しいからね。僕も冷凍食品には割とお世話になってるよ」
偶に気が向いた時にお弁当を作るんだけど、献立に悩んだら真っ先に思い浮かぶのは冷凍食品だね。種類も豊富だし、レンジで温めるだけなのも忙しい朝には嬉しいポイント。味もどんどんレベルが上がっていて、お弁当とか関係なしに食べることだってあるくらいだ。
…と、まるで主婦のような感想抱いている間に、月奈はトーストを完食していた。
「ごちそうさまでした」
「お粗末さまでした」
「あ、片付けくらいはあたしがやるよ。泊めてもらっといて何もしないのはちょっとねぇ」
「それじゃあお願いしようかな」
「お任せー」
月奈がお皿を洗ってくれてる間に、僕は元旦からやっている布団が買えそうなお店を探す。昨日月奈に約束した通り、来客用の布団を手に入れるためだ。
しかし元旦から店を開けているのはデパートのような高級店ばかりで、普通の量販店は明日か明後日からしか開いていないようだった。
困ったな…。昨晩みたいなことはもう勘弁してほしいんだけど。本当に歯止めが効かなくなってしまう。
月奈はすぐに食器を洗い終えた。手際が良いと感心しつつも、目下の悩みはまたもや今夜の寝床について。
仕方ない、とりあえず月奈に相談するしかないが。
「えっと、月奈。今日の寝るところなんだけど……」
「…昨夜と今朝は大変お見苦しい姿をお見せしました…。何とぞ、追い出すのだけはご勘弁を…」
「そんなことしないよ!?というか土下座とかいらないって!お布団が買えるところがなさそうだから困ってるんだよ」
「あ、そういう…。………あたしとしては大歓迎なんだけど…」
「どうかした?心当たりとかある?」
「いやいや、全然ないよぉ。じゃあ今日も同じベッド?」
そうするしかないのかな。普通は月奈みたいな可愛い女の子と一緒に寝れるのは喜ぶべきことなんだろうけど、昨日のあれがあったせいで本当に危険としか思えない。
僕も仕返しとはいえやり過ぎてしまったと反省してるし、それならもう一度さっさと寝てしまえば問題はないか。
「真琴くん?」
「あ、ごめん。そうだね、そうするしかないかも。また狭く感じるかもしれないけど…」
「全然だいじょぶ。てかそもそも狭くなかったし」
それは良かった…って言いたいところだけど、そりゃ僕に抱きついて寝てたんだからそうなるよね。
寝相が悪いとは思いたくないけど、どうしてああなったのかは気になるし聞いてみよう。
「そうだ、今朝のことなんだけど」
「…な、なんでしょう」
「そんなに身構えなくてもいいよ。どうして僕に抱きついて寝てたのか気になっただけで」
「あれは、そのぅ……笑わない?」
「もちろん」
「子どもっぽいと思うかもしれないけど、あたし、いつもクマのぬいぐるみと一緒に寝てて…。ついクセでぬいぐるみみたいに抱きしめちゃったんだよね…」
その真相は、なんとも可愛らしい理由だった。月奈にもそんな一面があるんだな、と思わず笑い声が出てしまう。
「あ、笑った!笑わないって約束したよねぇ…!」
「ごめんごめん、ちょっと意外でさ。月奈って結構冷めてるイメージがあったから」
「どんなイメージ…?あたしは可愛いものも好きだし、流行にも敏感だからね?」
友人の新たな一面を知るところから、新年の初日は動き出していく。
今年はどんな一年になるのか、少なくとも去年よりは楽しみに感じている真琴であった。




