32.正ヒロインと悪戯心
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月奈のパジャマ姿に目を奪われつつも、何も言わずにベッドに潜り込む真琴。それは彼なりのせめてもの抵抗なのか、それとも恥ずかしさを誤魔化しているだけなのか。恐らくは後者であろうが。
そのことを当然のように察した月奈は、悪い顔をしながらベッドへと近付く。そしてベッドへ登った月奈は、真琴の隣に寝転がる…のではなく、なぜか跨るようにして真琴の上に位置取った。
突飛な行動の意味も分からず、戸惑うことしかできない真琴。幸い、答え合わせはすぐに行われた。
「顔が赤いよ真琴くん?ほらほら、何か言うことがあるんじゃないのかなぁ?」
「………言わないという選択肢は」
「あるわけなし。早く言わないとこのまま顔を近づけてって、最後には…どうなっちゃうんだろうね」
「でも思い通りになるのも癪だし……」
「どういう意味だコラ。マジでキスすんぞ、おおん?」
「哲也もそうだけどなんでみんな喧嘩腰なの…」
真琴は当然避けるつもりである。しかし月奈の欲しい言葉が分かっている以上、少しでも仕返したい気持ちはある。
そして月奈には明確な弱点があることを真琴は知っている。真琴はそれを利用することに決める。
「ねえ、唇が触れ合うまでもう少しだよ。あっ、本当はあたしとキスしたいんじゃ…」
「………じゃあ、する?」
「〜〜〜っっっ!?!?や、さ、ささやくのは反そ…ひゃっ!?」
月奈の誘惑に耐え、真琴は少女の耳元で囁く。本当にするぞ、と。
少女は思いもよらぬ反撃に動揺し、追撃の隙を晒してしまう。
そして真琴は徐ろに月奈の手を握ると、自らの方に引っ張って位置を入れ替える。
形勢を逆転させた真琴は、先ほど自身がやられたのと同じように月奈に迫る。月奈も突然の状況に焦り、目を泳がせていたが、やがて観念したのか弱々しい視線で真琴を見つめる。
「入れ替わっちゃったね。さっきまであんなに自信満々だったのに、どうしたのかな?」
「あうぅ………。お、お手柔らかにお願いします…?」
「それじゃ遠慮なく」
「あっ…まだ心の準備が……!」
月奈は全身を強張らせ目を瞑り、未知の体験に備える。
真琴もまた月奈に向かって手を伸ばすが、その瞬間が訪れることはなかった。
「なんてね。安心して、僕は月奈が嫌がるようなことは絶対にしないって決めてるから。でも、やっぱり反省してなかったね。これはまたきつーいお仕置きが必要かな?」
「はぁ〜…ほんとにされちゃうのかと思った。ちょっとからかうだけのつもりだったのに、あたしのファーストキスが奪われるところだったよ」
「月奈が言ったんでしょ、僕のことをケダモノだって。そんなやつにちょっかいかけちゃダメじゃないか」
「まあ、そりゃあ…ね?…………別にキミなら、あわよくば…とか………………」
「月奈は本当に好奇心の塊だね。でも時と場合は選ばなきゃね」
「分かってますー。お泊まりとかちょー久々だからテンション上がっちゃってただけですー」
悪ふざけの範疇を超えてる気がするんだけど……。まあでも、これで少しでも嫌なことを忘れられてるなら、僕もこんなことをした甲斐があった。
それにしても、月奈ってやっぱり可愛いよね。学校では美波の影に隠れてるとはいえ、本当ならもっと人気が出てもおかしくないはずなのに。
彼女とこれだけ仲良くできてる僕は幸せ者だな。
そんなズレた感想を抱いた真琴は、そのまま目を閉じてしまいそうになるが、言い忘れたことを思い出して今にも落ちそうな瞼を少しだけ我慢する。
「月奈、おやすみ」
「……おやすみ、真琴くん」
彼女の微笑みに見送られながら真琴は眠りにつく。一方の月奈も眠気を感じつつも、先ほどの出来事が脳裏を離れないでいた。
「寝ちゃった……」
こうして見ると、寝顔までイケメンじゃん。やっぱイケメンって何しててもカッコいいんだな。しかもそれがあたしの好きなモデルとかヤバすぎでしょ。
友達になれたのも奇跡だし、あたしのピンチもいつも救ってくれる。もう一生分の運使い果たしたのかってくらい、今が最高に楽しい。
さっき真琴くんを煽ったのだって、ほんのいたずら心だったけど、心のどこかであわよくばって気持ちがあったのも否定できない。だから耳元で囁かれたときはほんとにビックリしたし、唇が近づいてきたときも割と覚悟は決まってた。
ま、世の中そう簡単にはいかないんだよね。彼のガードもかなり堅いし、あたしに出来ることは全部やって落とす。
そうじゃないと……。
「美波には勝てない………」
美波の方が可愛いし、愛想良いし、胸だっておっきいし。あたしが勝ってるのはせいぜい勉強くらい。
だから今はチャンスなの。真琴くんと二人きりでいられるこの時間で、もっと距離を縮めなきゃいけない。
「ごめんね、真琴くん」
聞こえていないと分かっているが、月奈はそれでも一言断りを入れる。
そして目の前で眠る少年の頬に、そっと唇を落とすのだった。




