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クラスの一軍女子を助けた。隣の君に恋をした。  作者: 山田 太郎丸


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30.陰キャ男子とジャンプの意味

閲覧&反響感謝の二回行動です


 



「ちょ、めっちゃ良い匂いするじゃん!」




 帰宅後、空き部屋の片付けをしていた月奈は、キッチンから香る油と出汁の匂いに釣られていた。


 真琴は危ないよ、と子どもに諭すかのような口調で月奈を油から遠ざけるとともに、完成したかき揚げを油の中から取り出す。

 それを湯気の立ったどんぶりの上に乗せれば―――。




「できたよ、山倉家の年越しそば。まあ毎年変わるんだけどね」


「やばい、お腹ペコペコなんだけど。食べていい?いいよね?」


「熱いから気を付けてね」


「はーい!いっただきまーす!………むぐ、うみゃい!」


「口に物入れたまま喋らないの」




 今日はなぜだか真琴の母性が強い。それは真琴の家族が大晦日に限ってぐうたらしているため、大晦日だけは一家を支える母親モードに入るからだ。日頃の恩返しという面もあるが。

 長年の癖は簡単に消えるものではないが、家族と離れても変わらないとは真琴も思いもしなかっただろう。


 そんなことはつゆ知らず、目の前の少女は勢いよくそばを啜っている。本当に美味しそうに食べるその姿に、真琴も思わず笑みがこぼれる。


 真琴も麺が伸びる前に食べてしまおうと、自らが作ったそばに手を付ける。我ながらよく出来ている、と首を小さく縦に振る。これも普段から自炊をしている成果だろう。


 月奈はあっという間に食べ切り、満面の笑みでおかわりを要求している。自分が泊めてもらっている立場だと分かっているのなら、かなり勇気のある行動だ。

 なお現在の月奈はそんなことには全く気付いていない。ただ美味しいものを食べたいだけである。




「はいどうぞ。かき揚げもまだある…というかサクサクのうちに食べ切っちゃいたいね」


「まだまだ食べれるよぉ。…まさかおせちもあるとか言わないよね」


「あはは、さすがにそこまでは手が回らないよ。それっぽいおつまみみたいなのは作ったけどね」


「天才や………。養ってほしいくらい」


「もう少し頑張ろうよ。ヒモになるにはまだ早いよ?」




 軽口を叩きながらも、もの凄い勢いで食べ進めていく月奈。文化祭の時はあまり食べてなかったから少食なのかと思ってたけど、全然そんなことなかった。少し作りすぎたかと思ってたからちょうどよかった。


 僕ももう少し食べようかと席を立つと、月奈のどんぶりはまた空になっていた。




「おかわり!」


「早いね!?どれだけお腹空いてるの!?」


「だって今日、家出の準備に手間取ってお昼食べ損ねちゃったし。真琴くんのご飯なら無限に食べれそうだわ」


「僕なんてまだまだだよ。でも美味しいって言って食べてくれるのは嬉しいね」




 いつも一人で食べているからそんなこと思わないけど、誰かに自分が作った料理を褒められると心が暖まる。いつもより気合いを入れて作った甲斐があったよ。


 そうして用意していたそばはあっという間に無くなった。月奈も満足してくれたみたいで良かった。


 夜も更け、もうじき年を越す。そこで二人はとある問題に気が付く。




「ねえ月奈、今さらなんだけど来客用の布団無いんだよね……」


「………マジ?」


「そりゃ来客の予定なんてなかったからね。嫌かもしれないけど、月奈は僕のベッドを使って。僕はその辺で適当に寝るから」


「いやダメっしょ!?こんな真冬にそんなことしたら風邪引くって!」


「そうは言ってもね………」


「……………じゃあ、さ。同じベッドで寝ればいいじゃん。あたしは気にしないし、これで全部解決でしょ?」




 あまりにも予想外の提案に、またもや思考停止してしまう。それはそれで新たな問題が発生するし、理性を保てばいいなんて言ったけど一緒に寝るのは無理がある。女性が苦手な僕でさえ正気でいられる自信がない。


 それに月奈は気にしないなんて言うけど、感性豊かな月奈に限ってそんなことありえるかなぁ。




「………やっぱりダメだよ。そんな状況で僕は月奈に何もしないでいられる自信がない」


「真琴く〜ん、元からケダモノのくせにビビってんの〜?そんなにしおらしい感じ出しちゃってさぁ?」




 ……今の、ちょっとだけムカついた。そういうこと言うならこっちだって。




「なら、本当に襲われても文句言わないでね?」


「え、ちょ、目が本気なんですけど。そういうのも………じゃなくて、今のはちょっとした冗談というか……」


「冗談?そんな悪い冗談を言う月奈にはお仕置きが必要みたいだね」


「や、あの、待っ」


「待たない」




 そうして僕は月奈に向けて手を伸ばして―――。




「ひゃっ!?あひゃひゃひゃひゃ!や、やめっ!ひぃっ!?」


「月奈が謝るまでくすぐるのをやめないっ!」


「ご、ごめん、ごめんなさいっ!だからそれ以上はぁっ!あははははっ!」


「反省した?」


「ひぃ…はぁ、は、反省しました…………」


「じゃあ月奈がベッド使ってね。明日開いてるお店探して買いに行くからさ」


「…別に今日だけならいいじゃん。それにあたしは真琴くんなら……ごにょごにょ………」




 最後の方は声が小さくて聞き取れなかったけど、どうやら月奈も譲るつもりはないらしい。僕のことを心配してくれるのは嬉しいけど、さすがにベッドが狭くなってしまう。押しかけた形とはいえ、女の子に窮屈な思いはさせたくない。


 …仕方ないか。どちらかが折れないと話は進まなそうだし、健康面で言えば月奈の案がベストなのは事実。折を見てベッドから抜け出せば問題無いはずだ。




「分かったよ。少し狭くなっちゃうかもしれないけど…」


「だから気にしないって。ほら、もうすぐ年越しだよ」


「本当だ。いつの間に…」


「真琴くんが意地張ってるから。ちなみに真琴くんはジャンプする派?」




 そんな「やれやれ…」みたいな口調で言われても。やっぱり反省してないな。




「しない派。あれ意味あるの?」


「ある訳ないじゃん。あっ、0時になった!あけおめ!ことよろ!」


「あけましておめでとう。今年もよろしくね」


「よし、寝よ!家出のあれこれで疲れちゃった」




 とても疲れてる人のテンションとは思えないんだけど。まあいいか、今日くらいは。


 だが真琴の思いとは裏腹に、この夜はまだまだ続くのだった。




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