28.正ヒロインと年の瀬
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帰宅した月奈は、玄関に見慣れた靴がある事に気付き、顔をしかめる。その存在が月奈にとって喜ばしくないからである。
月奈は無視して素通りしようとする。しかし靴の持ち主はそれを許さなかった。
「…どこに行っていた」
「別に。友達と遊んでただけ」
「そうか。元々、お前に期待などしていない。どう過ごそうと勝手だが、私の顔に泥を塗るような真似はするなよ」
これが柳沢家の常。姉の出て行ったこの家には月奈と父親の二人のみが住んでいる。母親も随分前に家を離れたようで、月奈もあまり顔を覚えていない。
そして特筆すべきは冷え切った親子関係。父の死んだような表情と外聞ばかりを気にする言葉が、月奈には深く突き刺さっていた。
真琴と初めて話した時、月奈がその目を濁っていると評したのは、身内に同じような目をした人間が居たからである。
ただし、真琴はあくまでも自身の問題であるのに対し、月奈の父親は家族という重大なファクターが関わっているため、家族仲が良かった頃の父親の姿はもう取り戻せない。
月奈本人は気付いていないが、その事を分かっていたからこそ真琴に近づいた面もある。もしかしたら、父親を元に戻すヒントを得られるかもしれないと。
その薄い望みもとっくに絶たれている。結局、父親の心にはどんな言葉も響くことは無かった。
「お姉ちゃんもそれが嫌で出ていったんだよねぇ……」
お姉ちゃんの場合はあたしと逆で、過度に期待されたのが原因で家を飛び出していった。お姉ちゃんは小さい頃から優秀で、勉強もできたし運動神経も良かった。
姉妹仲も良かったし、劣等感を抱くとかそんな漫画みたいなことはなかったけど、お父さんからはしつこく言われ続けた。
だからあたしたち親子の間には、数年前から埋まらない溝ができてしまった。
「この外見だって、ちょっとした反抗のつもりだったんだけどねぇ…」
お父さんは全く気にも留めなかった。『人様に迷惑をかけなければ後はどうでもいい』って。一応お小遣い…というか生活費だけはくれるんだけどさ。それだって毎月机の上にお金が置いてあるだけだし。封筒とか書き置きとかなんにもない。
結局、どこまでいっても自分のことしか考えてないんだろうね。あたしが冷めた性格してんのも、この人の遺伝かもね。
あーあ、やだやだ。せっかく良い気分で帰ってきたのに。楽しいこと考えよ。
てかもう年末じゃん。どーせお姉ちゃんは帰って来ないだろうし、お父さんと年越すのも気まずいからネカフェで年越しかなー。美波ん家に泊めてもらうのも迷惑になっちゃうよねぇ。
そういえば真琴くんって一人暮らしだっけ。…いや、ナイナイ。これ以上迷惑かけらんないし、同級生の男の子の家に泊まるとかそれこそあたしの方がケダモノじゃん。もし襲われでもしたら………。
「〜〜〜〜!!!」
うっわ…はっず。一人で好きな人のこと考えて、しかもそれが、え…えっちな妄想とか。
よし、もうそれ以上考えんな月奈。お風呂入ってさっさと寝よ。
結局先ほどのことを忘れることは出来ず、いつまで経っても眠れなかったとか。
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大晦日。今年一年どんな出来事があったのか、新年を迎える前にやり残したことは無いか、特に無いためこたつに入って寛ぐのか。はたまた普通に出勤しているのか。人それぞれの過ごし方があることだろう。
学生といえど、真琴は一人暮らし。彼は捨てる物も無いほどがらんとしたリビングで、年始に向けての準備を進めていた。
「買い溜めは十分。掃除も済ませた。断捨離するほど物も無い……服は少し考えようかな」
クローゼットに収納された洋服の山。一つひとつに思い出はあるけど、それ以上に量が半端じゃない。だけどこの間の燕尾服みたいに着る機会があるかもしれないと考えると、なかなか捨てるという判断も難しい。
もういっそ哲也にあげようかな。いや、哲也はそこそこ厳つい外見のくせに服の趣味は機能性重視なんだった。絶対おしゃれな服とか着ないな。
まあいっか。クローゼット広いし、スペースはまだまだあるしね。
なぜならこの家、実は使ってない部屋が1つある。さっきも言ったけど物置にしようにもそもそも物はないし、一人暮らしには今使ってる部屋だけで十分すぎた。こんなことならワンルームにすればよかった。
たられば言っても仕方ない。やる事も終わったし、ゲームするか少し散歩しに行くか…。そうだ、年越しそばの具材を買いに行こう。そばは茹でればいいから、何入れるか考えよう。
鴨だしそば…は高いな。カレー南蛮…は年越しっぽくないな。普通にかき揚げそばにするか。時間はあるし、せっかくだからかき揚げも自分で作ろうかな。
そうと決まれば陽が出ている今のうちに行こう。年末だしスーパーも早く閉めるかもしれない。
家を出ようとしたその時、ピンポーンと来客を知らせる音が鳴る。モニターを確認してみると。
「配達とか頼んでたっけ……………え、月奈…?」
なぜか大きなバッグを持った彼女は、なんとも言えない表情で扉の前に立っていた。




