26.思い悩む正ヒロイン
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八乙女を退け、会場中の注目を集めた真琴。周りから様々な声が浴びせかけられるも、それには見向きもせず一直線に月奈たちの元へ向かう。
哲也に一言お礼を言った後、真琴は二人に謝罪する。
「遅くなってごめん。二人を守るために来たのに…」
「…………ほんとだよ、ばか。…………ありがと」
「どういたしまして。でも空気悪くしちゃったし、僕は帰るよ」
「帰っちゃうの?もっといっぱいおしゃべりしたかったのに…」
「そうだぞ真琴。美波が悲しんでるじゃねーか」
「ちょっ哲也!名前言うなって!」
「あっ、やべ」
やべ、じゃないって!他の人の前では月奈も美波だって気を遣ってくれてたのに、これじゃ全部台無しじゃないか!
会場の生徒がざわめいている。そこかしこから「真琴って誰?」「文化祭の時のあの人だよね」といった声が聞こえてくる。
学校での普段の姿には気づかれてないみたいだけど、クラスがバレてしまった以上、この間みたいに人が押しかけてくるのも時間の問題。
冬休み明け、覚悟しておく必要があるかもしれない。
なんにせよ、僕はこれ以上この会場にいない方がいい。美波に引き留められたけど、これだけ注目されてしまうと普通に楽しむ事ももう難しいだろう。
「楽しみにしてくれてたのは嬉しいけど、やっぱり僕はここにいちゃダメだ。皆さんも、せっかくのパーティーなのに空気を壊してしまってすみません。できれば、これ以上僕のことは詮索しないでいただけると助かります」
「真琴くん……」
「元々は二人を守るために来たんだし、手を出さないよう忠告もした。じゃあ、また三学期に」
「……………………………」
月奈は涙で腫れた目でこちらを見つめた後、そのまま俯いてしまう。月奈のせいじゃないし全く気にすることは無いのに。
これは何か埋め合わせが必要かな。HINEで何か欲しいものがあるか聞かなきゃ。
会場を後にした僕は、哲也も含めた三人にメッセージを送る。哲也にはさっきのやらかしを追及し、逆に5クレ奢るように要求した。哲也は本当に申し訳なさそうな表情をしていたけど、あえて追撃をかけた。変に責任を感じてほしくないからね。
後の二人には前述の内容を送った。美波は勉強を教えてもらったからそれで十分と返してきた。月奈も言っていたけど、やっぱり優しいんだね。
その月奈はというと、しっかり欲しいものを送ってきた。
『何でもいいの?』
『常識の範疇でなら』
『じゃあこの新作コスメ』
その文言とともに、写真が送られてくる。…これ、僕がこの間買ったのと同じやつだ。前に広告モデルとして出させてもらってから愛用していたメーカーで、変装用のメイク道具の一つとして買ったは良いけど、結局一回も使ってなかったな。
そんなに高いものでも無かったからちょうどいいや。使ったことないけど評判も良かったし、自信を持ってオススメできるものだ。
『それ、ちょうど使ってなかったのがあるからあげるよ。冬休み明けでいい?』
『あとで取りに行く。マンションの場所は分かるから部屋教えて』
『303号室だけど、エントランスの鍵開けなきゃいけないし、マンションの下で待ってるよ』
『分かった。学校出たらまた連絡する』
そういえば、昨日のことがうやむやになってたな。そのこともちゃんと謝らなきゃいけない。
制服を脱いで、外出用の服に着替える。今日はクリスマスだし、いつもより良いお肉でも食べようかなと思ってたから、月奈を送っていくついでに買い物に行こう。
にしても寒い。すっかりダウンが手放せなくなってしまった。制服のカーディガンも悪くはないけど、ダウンのように厚手の上着は着ていけないから、登下校の際は手袋とマフラーも必需品。
少し外出するだけならダウン一着で十分なんだけどね。陽も落ちてきたし、そろそろ出よう。
コスメを持って一階に降りると、そこには既に月奈の姿があった。連絡、来てなかったよね。念のため確認すると、『着いたよ』という現在と同時刻の送信時間が表示されたメッセージが届いていた。
「あ…真琴くん…。ごめん、連絡するの忘れてた…」
「全然大丈夫。僕も偶然今降りてきたしちょうど良かったよ。はいこれ、僕もいつも使ってるメーカーだから気に入ると思うよ」
「うん…ありがと………」
「あと、昨日はごめん。頼って欲しい月奈の気持ちは分かってるのに、あんな突き放す言い方をしてしまって」
「あ…うん…」
「…どうしたの月奈?さっきから元気ないけど、何かあった?」
どうにも月奈の様子がおかしい。いつもは掴みどころのない自由な振る舞いをしているのに、ここに来てから全然目も合わないし、受け答えも気力のこもっていない生返事ばかり。
僕がいなくなった後のパーティーで、トラブルでも起きたのだろうか。
そう聞こうと思った瞬間、月奈が先に口を開く。
「…そういう訳じゃないの。キミに助けられてばかりで、キミを無理やり表に連れ出したのも申し訳なくて…。貰ったこれだって、ただの強がりなの…」
「月奈………」
「キミが助けに来てくれて、喜んでいる自分が浅はかで許せなかった。あたしがもっと強く言い返せてれば、あんなことにはならなかったのに…」
「月奈は悪くない。悪いのはあの碌でもない先輩だ。自分を責める必要はどこにもないじゃないか。これ以上謝るようなら、僕も本気で怒るよ?」
「ごめ、あ、えっと……………」
「いつもみたいに、ありがとって、そう言ってくれれば僕には十分だからさ。そんなに気にしないで」
なおも月奈は俯いている。…これは結構重症かもしれない。彼女に元気を出させる方法………。
一瞬悩む素振りを見せた真琴は、おもむろに月奈の手を取り、外へ連れ出そうとする。
「そうだ。月奈、まだ時間って大丈夫?」
「大丈夫、だけど………」
「ちょっとだけ付き合ってもらってもいいかな。行きたい場所があるんだ」




