24.陰キャ男子と気分転換
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クリスマスパーティーの前日。真琴の不調は未だ続いており、出席の返事すら出来ていなかった。
前提として、真琴は自らが悩みを抱えていることにも気付いていない。他人を遠ざけてきた真琴にとって人間関係で悩むのは初めての出来事であり、月奈や美波が自身の中で大きな存在になりつつあることを把握していないからだ。
哲也がアドバイスを避けたのも、真琴自身が気付き、向き合わなければならない問題だとすぐに理解したからである。
無論、そうとは知らない真琴は、大した目的もなく街へと繰り出していた。
(ダメだ、何も感じない)
最近、ボーッとすることが増えた。身体はいたって健康だし、寝不足とかそういうこともない。
ただ、別のことが頭の中を支配している気がして、今一つ集中できないだけなんだ。
昨日だってバイトでミスばかり、大将や先輩方に迷惑をかけてしまった。優しい人ばかりだから怒らないでくれたけど、忙しい中で余計に気遣わせてしまうのが心苦しかった。
だから気分転換にこうして栄えている街の方まで出てきた訳だけど、歩いていても特に変わりはないし、お店に入っても購買意欲がまるで湧いてこない。
一体僕はどうしてしまったのだろうか。心の奥にずっとモヤがかかっているような、そんな感覚。
……考えてても埒が明かない。今日は外食でもして、少しだけ贅沢しよう。
ちょうど目の前にハンバーガーショップがあったので、何を食べようかと想いを馳せながら店舗に入る。
「いらっしゃいませー」
「てりやきバーガーのセットで」
「お飲み物はいかがいたしますかー?」
「………ジンジャーエールで」
「かしこまりましたー。少々お待ちくださーい」
注文と支払いを済ませて、やや混雑している店内で空席を探す。1人だしカウンターでいいか。
そう思い座ろうとした時、ちょんちょん、と肩をつつかれる。
一体誰だと振り返るとそこには―――。
「や、真琴くん」
「月奈。どうしてこんなところに?」
「美波に、『お腹空いたー』って誘われたんだけど、あの子用事があったの忘れてたみたいでさっき帰っちゃったんだよねぇ」
「それは…美波らしいね」
「置いてかれる方の身にもなれっての。それでしょうがないから帰るかーってなってた時にキミが来たってワケ」
タイミングが良いのか悪いのか、偶然にも月奈と出会う。どうやら僕と美波は入れ違いになっていたようだ。
ただ、どうしてだろう。いつもなら普通に話せていたはずなのに、月奈の前ではうまく言葉が出てこない。………もしかしたら不調の原因は月奈だったりするのかな。
いやまさか…うん、そんな訳ない。でも少し、ほんの少しだけ。心にかかったモヤが晴れた気がする。
「ありがとう、月奈」
「ふわっ!?急にどしたの!?」
「え?いや………なんでだろう。分からないけど、何となく感謝した方が良いような気がして」
「あははっ、なにそれ。まあ気持ちは分かるよ?美少女はそこに居るだけで感謝されるような存在だからね」
「かもしれないね。あ、そうだ、クリスマスパーティーのことなんだけど」
まだ違和感を覚えるのは変わらないけど、だったら環境から変えてみたっていいじゃないか。
月奈も美波も喜んでくれるなら一石二鳥、もしかしたらそれ以上になるかもしれないしね。
僕だっていつまでも、わがまま言うだけの子供じゃいられない。
「参加するよ。せっかく誘ってもらったし、どうせ暇だからね」
「理由はそれだけですか?」
月奈はニヤニヤしながら聞いてくる。分かってるさ、君が望む答えくらい。それを真っ直ぐ言うのは少しだけ気に食わないけどね。
「お姫様たちも、守らないといけませんからね」
「……苦しゅうないぞ、真琴くん。それで、見た目はどうすんの?」
月奈が返事をする際に空いたわずかな間が引っ掛かる。もしかして返答を間違えたかな。
「隠そうかなって。なんか噂になってるみたいだし」
「そういえば七不思議になってたね。でも隠したままじゃ男避けにならないと思うんだよねぇ」
「あの七不思議、雑も雑だよね…。月奈は僕が男避けになった方がいいの?ていうか本当に僕で大丈夫なの?」
「ん。真琴くんじゃなきゃ駄目だよ。文化祭の時にも言ったけど他の男は頼りないし、てっちゃんでもギリかなぁ」
「………分かったよ。でも僕だって見抜かれないように協力してよ?」
「それくらいはもちろんだけど、あたしと美波が近くにいる時点で同じクラスの誰かとは思われるかもしれないんだよねぇ」
それは…確かに。最もあり得る可能性を考えると、真っ先に思い付くだろうね。哲也にも手伝ってもらおうかな?あまり迷惑はかけられないけど、どうしてもバレそうになったら頼ろう。哲也ならアドリブでも合わせてくれるはずだ。
「それはその時考えよう。結局、これは僕の問題だから」
「協力してくれって言う割にはずいぶんと遠ざけるね。あたしのことは信頼できない?」
「そんな訳ないよ。月奈のことは誰よりも信頼してる。それこそ、哲也以上かもしれない」
「じゃあもっと頼ってよ。あたしだって、キミのことは誰よりも信頼してるんだからさ」
「……月奈には迷惑をかけたくない。少しでも危険が及ぶ可能性があるなら、僕は君を頼ることはできない」
頼ってほしいと、不安げな表情で彼女は願う。しかしただでさえ美波の、一軍女子の隣に居るんだ。これ以上君に余計な負担を背負わせる訳にはいかないんだ。
「…そりゃそうだよね。キミは、優しいから。あたしは真琴くんに助けられてばっかで、まだ何も返せてないのに……」
「前にも言ったけど、僕が勝手にやってることだから。そんなに気を遣わなくてもいいよ」
「…………ごめん。……邪魔しちゃったし、あたし帰るね…」
その背中に手を伸ばそうとしたけど、引き留めたところで出来ることはないと気付き、その手を下ろす。
冷めてしなしなになったポテトは、しょっぱいはずなのに全く味がしなかった。




