22.一軍女子は手に負えない
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会話もそこそこに、二人は勉強に取り掛かる。愚直に教え込んだところでどうにかなると思っていない真琴は、まず得意教科と苦手教科を洗い出すことにした。
全ての教科の問題集から試験範囲の部分のみを解かせ、終わり次第採点、その間に次の教科を解かせてを繰り返す。
その結果として、真琴は再度頭を抱えることになる。
(ほ、ほとんど合格点に届いてない………)
月奈さん、本当にとんでもない難題を寄越してくれましたね。僕の手にも負えません。せめてもの救いは何故か生物だけ赤点回避が容易そうなことかな。後で聞いてみたら動物が好きだからって言われた。いや生物と動物は別問題じゃないか?
僕としては生物が一番教えにくかったから助かるところではある。けどそれを超えて厄介な事案だと言わざるを得ない。
特に数学と英語は酷いものだった。数学は公式を間違えてるだけだけど、英語に至っては基本の5W1Hすらできていない。
歴史は暗記なのでひたすら詰め込み、国語は…ヤマ張りも出来ないから、教科書を何度も読ませるしかないかな。範囲が分かってるなら、ある程度教科書を読んでいればなんとなくで出来るはず。
「美波、副教科は捨てよう」
「え、なんで?」
「主要教科が酷すぎるからだよ!これを先にやらなきゃ補習の拘束時間がとんでもないことになるよ!その点、副教科は補習が少ないし赤点ラインも緩いみたいだから!クリスマスパーティー行きたいんでしょ!?」
「はい!行きたいです!お願いします、真琴先生!」
いいだろう。やるからには徹底的に、ね。
まさか本当に全部分からないとは思わなかったけど、一番被害を少なくするにはこれがベストだ。副教科なんて成績査定にもあまり響かないし、最悪捨てたって大きな問題はない。
近い将来の受験のことまで考えるなら、主要5教科を押さえることを優先すべきだからね。これなら美波の希望にも沿える。
そこから、真琴のスパルタ指導は始まった。最初は、公式や定型文を脳に染み込ませるためにひたすらノートに反復して書かせ、ある程度身に付いてきたら今度は練習問題を反復して解かせる。
真琴は最早なりふり構っていられなかった。点数を取るために一番効率的な、『ひたすら数をこなす』という手段を取った。
やり方は、人によって合う合わない等があるが、この反復練習は美波にとって最高に合うやり方だったようだ。ずっと勉強という訳にはいかないが、学校での空き時間はノートに向き合い、真琴の部屋にいる間は間違いを丁寧に教えてくれるため、美波なりに時間を有効活用していた。
そしてテスト一週間前。
「……うん。これなら赤点回避もほぼ確実にできるだろうね」
「ほんと!?クリスマスパーティー行ける!?」
「こらこら。まだ浮かれちゃいけないよ。これからも反復練習は続けるって条件付きだし、副教科に関してはほとんどやってないんだ。少しはそっちにも手を付けないと、塵も積もれば山となる。副教科の赤点だけでクリスマスパーティーには出られないかもしれないしね」
「うぅ……がんばります………」
「そこまで心配する必要はないよ。その辺りは前日に詰め込めばいいし、ある程度ヤマ張ってれば赤点回避くらいは余裕だからさ」
これは事実だ。副教科なんて主要教科に比べれば圧倒的に範囲が狭い。だから2、3箇所くらい重点的にやっておけば、100点満点中50点くらいは取れるはず。……全部外すという奇跡が起きなければ。
今さらたらればを気にしても仕方ない。初めから捨てようと思ってたところだし、美波には取れたらラッキーくらいの気持ちでいてもらえば。
「このまま勉強を続けていけば絶対大丈夫だから。今は良い点数取れてるからって油断しないように」
「はい!ありがとうございます先生!」
「じゃあ今日はこれで終わろうか。お疲れ様」
僕が思うに、美波はそんなに物覚えが良い方じゃない。だけど何度もやらせれば確実に覚えてくれるタイプ。普段から勉強していれば良い順位が取れそうなものだけど。
最初は絶望したけど、今では全くそうは思わない。他人に教えるのは自分にとってもいい勉強になるし、押し付け……引き受けてよかった。
その後、自分の勉強も進めていると、スマホが震えていることに気付く。
美波が分からないところを聞きに来たのかな、そう思ってスマホに表示された文字を見ると―――。
「え、月奈?」
『もしもーし。今だいじょーぶ?』
「うん、勉強してただけだから」
『邪魔しちゃってごめんねー?美波、結構頑張ってるみたいだったからさ。いきなりだったのに引き受けてくれてありがとね』
「押し付けた、の間違いでしょ?」
『あはは、ごめんごめん。でも今回ばかりはさすがに無理かもーって思っちゃったんだよね。真琴くんならあたしよりも頭良いし、助けてくれるかなって』
…僕のことをよく理解してらっしゃるようで。というかあんなの誰だって断れないよ。クラスのみんなも見ていたし、美波も本当に困ってそうだったから。
『でさ、うちの美波が迷惑かけてない?真琴くんも忙しいだろうし』
「大丈夫だよ。テスト期間はバイトはお休みにしてもらってるし、勉強してるのも僕の家でやってるからね」
『………は?ナニソレ、聞いてないんですけど』
「えっ?美波から聞いてなかった?」
『聞いてない!なんでそんなことになってんの!?いつの間に美波とそんなに距離近くなったの!?』
なぜかとても焦り出す月奈。顔は見えていないけど、声だけで相当に焦っていることが分かる。
確かに僕から美波との関係を話したことはなかったけど、美波も何も話してなかったんだ。美波を助けたときのことも知ってたし、てっきり家のことも話したのかと…。
致命的なすれ違いによって今から隠すことも難しくなってしまったので、僕は諦めて全て話すことにする。
「えっと、まず僕と美波は同じマンションに住んでるんだ」
『…ま、そういうこともあるよね』
「なぜか半年間も気付かなかったんだけど、それは置いといて。美波なりに気を遣って、僕が目立たない場所を考えてくれたみたいなんだ」
『そりゃ絶対バレない場所だけどさ?だからって普通女の子を自分の部屋に上げるかね。美波も美波で、よくもまあ男の子の部屋に無警戒で入れたもんだよ』
「確かに…それはごめん。僕の思慮不足だった」
『ほんとだよ。あたしからしたら二人ともケダモノだよケダモノ』
なんて物言いだ……。だけどそう見えても仕方ない状況なのは分かってる。僕ももう少し深く考えるべきだった。
心配していたはずの月奈がなぜか怒り出した理由は、結局最後まで分からずじまいだった。




