20.清楚先輩とアルバイト
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激動の文化祭から一夜明けて。この日は振替休日ということで、文化祭の疲れが残っている状態で授業を行っても内容が入らないだろうと学校は判断した。
しかしその考えに当てはまらない男がここにはいた。
「おはようございます」
「おう、おはようさんマー坊!つってももう夕方だがな!ガッハッハ!」
「よっ、真琴。文化祭は楽しかったか?」
「それなりに。大変なことの方が多かったですけどね」
「相変わらずだなぁ、お前は。彼女作りたいとかねーのか?」
「それはカツ先輩でしょ。また秋華先輩に言われちゃいますよ」
ここは僕のバイト先で、家から二駅の距離にある居酒屋だ。高校入学時からお世話になっているので、ここで働き始めてもう半年ほどになる。
あまり大きいお店ではないけど、お店の人は優しい人ばかりだ。
この店の主人で大将と呼ばれる佐田さんに、カツ先輩こと水戸 勝二先輩。この間、僕の呼び名を決める時に“マー坊”なんてものが出たけど、実はもう呼ばれていることはなんか恥ずかしいので黙っていた。
それともう一人、そろそろ来るはずだけど―――。
「おはようございます」
「おはよう秋華ちゃん!つってももう夕が」
「大将、それさっきも聞いたっす。今どき天丼は流行んないっすよ」
「カツは手厳しいなぁ。なあ、マー坊?」
「僕に聞かないでくださいよ……。でも僕もカツ先輩と同意見です」
「おめえもかマー坊!?かーっ、最近の若者はしっかりしてんなぁ」
今やってきたのが蒼井 秋華先輩。僕の2歳年上で高校三年生。この店で唯一と言えるしっかり者だ。
これで全員ではないけど、僕が働きに来る日は基本的にこの四人で店を回している。
「聞いてくれよ秋華ちゃん。真琴に彼女いねーのかって聞いたら冷たくあしらわれちまってよぉ」
「当然ですね。カツさんがグイグイ行くから真琴くんも困ってるでしょう」
「ひでぇ!?俺なんて本格的に就活始まっちまったし、彼女作る時間もねえのに……。それに比べて真琴、お前はイケメンだしまだ高一なんだから引く手数多だろうが!」
「全然ですって。というかカツ先輩だってそこそこモテるでしょう?」
「オメーに言われたかねーよ!あー…どっかに俺を養ってくれる素敵な女性はいねえかなぁ…」
「カツさん、堂々とヒモ宣言ですか………流石に引きますよ」
こんな感じで、秋華先輩はいつも辛辣なんだ。大将にもカツ先輩にも変わらない態度で接している。僕にはあまりトゲのある言葉は飛んでこないけど、特にカツ先輩は身体中に穴が空いていることだろう。
それはさておき、この店は居酒屋なので開店時間が遅いんだけど、僕が来る頃には開店まで既に一時間を切っている。なのでさっさと掃除と仕込みを済ませて開店準備をしなければならない。
料理で使う野菜を細かく切ったり、調味料の残量を確認したり。こういう雑用は僕たちアルバイトの仕事だ。
そしてすぐに開店時間はやってくる。今日は月曜日なので比較的忙しくない日だけど、月曜日もやってほしいという常連さんの声が多かったそうなので、大将の厚意でこうしてやっている。
店の前の“準備中”の札を“営業中”に変えようと外に出ると、お客さんが数人並んでいることに気付く。
そのほとんどが顔馴染みのお客さんなので、僕も軽く会釈をする。
「おっ、今日は早いね真琴くん」
「もう入っていいのかい?」
「どうぞどうぞ。大将もビール用意して待ってますよ」
「ハッハ!いつもいつもありがたいね!それじゃあ遠慮なく」
この人たちは、地域の消防団に所属している常連さんで、大将も消防団の一員で全員と仲が良いそうだ。何か用事がない限りは、こうして毎週飲みに来てくれるという訳だ。
僕たちはいつものようにお通しを作りながら、完成した料理を席まで運ぶ。基本的に厨房は大将とカツ先輩、ホールは僕と秋華先輩という役割だけど、たまに僕とカツ先輩が入れ替わったりする。
特に最近は就活でお疲れのようだったので、その状態で包丁を握らせるのは危険という大将の判断だ。
あとやることと言ったら、お客さんの話し相手くらいかな。酒の肴になりそうな話題を提供するのも店員の仕事だと、大将がそんなことを言い出したのが始まりだ。
これがなかなか好評で、僕も貴重な話が聞けるので楽しみにしていたりする。
しかし僕らは学生なので、そんなに遅くまで働くわけにもいかない。なので、高校生の僕と秋華先輩は必然的にいつも同じ時間に上がっているんだ。
「大将、カツ先輩、お先に失礼します」
「お疲れ様です」
「お疲れ二人とも!またよろしくな!」
「真琴、ちゃんと秋華ちゃん送ってけよー!」
「そういうことばっかり言ってるから、いつまで経っても彼女ができないんですよ」
カツ先輩の悲鳴とお客さんの大爆笑は聞こえなかったことにして、秋華先輩と一緒に店を出る。僕と秋華先輩の家は反対方向なので駅までしか送れないけど、夜道を一人で帰らせるのはさすがに心苦しいからね。
「いつもありがとう。私が着替える間も待っててくれて」
「律儀ですね、先輩は。そんな気にすることでもないのに」
「気にする。私なんかのために真琴くんの時間を使わせるのは申し訳なくて…」
「私なんか…って、なんでそんなに自分を卑下するんですか。秋華先輩はいつも真面目で仕事もできるし、僕もとても尊敬していますよ」
秋華先輩の言葉に思わず反論してしまう。今言ったことは全部本心だけど、それ以上に先輩にはもっと自信を持ってほしかった。
先輩はすごい人なんだぞって、はっきり言えたら良かったんだけどね。僕にそんな度胸はなかった。
「尊敬…私を?本当に?」
「嘘吐く理由がありませんよ。もっと自信持ってください。僕だけじゃない、カツ先輩や大将、常連さんたちだって先輩のことをすごいと思ってますよ」
「それは……ふふ、やっぱり真琴くんには敵わないわね。君の方がよほどすごいじゃないの。こうやって、皆んなを笑顔に出来るのだから」
「僕なんてまだまだですよ。でも、秋華先輩には笑っていてほしいですから」
暗い夜道を照らす街灯は、赤面した少女の顔を照らすことは不可能なようだった。




