17.正ヒロインは炎と共に
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中夜祭の演目は多岐に渡る。先ほど真琴たちが見ていた軽音学部のライブや、一般生徒による漫才の披露まで。
文化祭初日での疲れを忘れさせる、という意図もあったりするのだがそれは横に置いておく。
中夜祭では、生徒が自主的に行うだけでなく、学校側から用意された演目もある。皆が楽しめるようにお菓子などの軽い景品が提供されるビンゴ大会や、教師陣が演者となって行われる無駄のハイクオリティな劇だったり。
そして中夜祭の最後に恒例となっているのが―――
「キャンプファイヤー、ねぇ」
「どうしたの、や…月奈さ………月奈」
「ぶふっ。真琴くんってば、慣れるの遅くなーい?もっと自然に呼んでほしいんだけどなー」
「急には難しいよ。それで、キャンプファイヤーがどうかしたの?」
「ううん、なんでもない。火の周りで踊ってて熱くないのかなーって」
「キャンプファイヤーにそれを言ったらおしまいじゃないかな……」
中夜祭の最後は、グラウンドに用意されたキャンプファイヤーで締めるのが通例らしい。グラウンドの中心で大きく炎が燃え上がっている。
学校が準備してくれたそうで、音楽に合わせて幾人もの生徒が二人組になってフォークダンスを踊っている。
だけど、心なしか男女でのペアが多いような………。
そう思っていると、タイミングよく月奈が答えを言ってくれた。
「あれ、なんかジンクスがあるらしいよ〜」
「ジンクス?」
「そ。中夜祭のダンスと後夜祭の花火を一緒に観た男女は結ばれるんだってさ。高校生ってほんとそういうの好きだよねぇ。ま、あたしはあんま信じてないけど」
「実際、みんながみんな結ばれるわけないしね。ほら、あそこで踊ってる神木さんとか絶対何も分かってないって」
「あはは、確かに。………じゃあ、さ。あたしたちでそのジンクス、壊してみない?」
「いいね、面白そう」
僕たちは二人で炎の方に向かい、音楽に合わせて見よう見まねで踊り出す。苦しくなるという理由でマスクを外され、ついでに髪も整えさせられたのは少し不満だけど。
身長差もあってか、最初はお互いぎこちなかったけど、徐々に慣れてきてリズムに乗って動けるようになってきた。
中学の頃はあまり参加できなかったけど、こういうのってやっぱりいいな。青春って、きっと今みたいなことを言うための言葉なんだろうな。
キャンプファイヤーの周りで踊りながら、ふと目の前の彼女について考える。僕が握っている、小さく柔らかな手。考え方は大人っぽいけど、やっぱりまだまだ同い年の女の子なんだなって思う。
最初に話してからまだ数日しか経ってないけど、彼女のことは少しずつ理解してきた。反対に、話すきっかけになった神木さんの方が関わることは少ないような気がする。
でも月奈と関わっているのは、神木さんのことだけが理由じゃないように思える。僕たちは似た性格をしているからか、結構気が合うことが多い。今回の文化祭で話している時、些細な話題でも共感できる内容が多かった。
もしかしたらこうして出会ったのも必然だったのかもね。
「真琴くん、何か考え事ー?今はあたしと踊ってるんだから後にしてくれなーい?」
「ごめんごめん。月奈のことについて考えてたんだ」
「はえっ!?き、急に何を言い出すのキミは………。本当にジンクス、破る気あるの?」
「あるよ。月奈だって分かってるでしょ、僕たちが似た者同士だって」
「そりゃあ、変な誘いに乗ってくるくらいだからね。こんな変人と踊りたい人間なんて、他にいるかねぇ」
「たくさんいると思うよ。月奈は可愛いから」
「………だからさぁ、そういうことは軽々しく言うもんじゃないの。…まったく、キミと居ると調子が狂うよ」
やれやれ、という風におどけてみせる月奈。
その顔が真っ赤に染まっているのは、目の前の炎が原因に違いない。
「でも絶好調でしょ?」
「違いないね。キミにはどんな自分でもさらけ出せちゃいそう」
「そんなこと言って。あんまりはしたない事ばっかり言っちゃ駄目だよ?」
「ふん、真琴くんのえっち」
「冗談ですよお嬢様。お詫びに、何かご希望でしたらお申し付けください」
「くるしゅうないわよ真琴。なら明日の後夜祭の花火も一緒に観てくれる?」
「もちろん。でも手段と目的が入れ替わってないかな?」
気のせい気のせい、と月奈は笑ってみせる。誰かとこうやってふざけ合うのもいつ振りかな。
………心地良い。半年間、自分を隠し、人と関わらずに高校生活を送ってきたけど、ただただ馬鹿なことを言い合っているだけの時間が一番だなんて思いもしなかった。
まだ多くの人と関わるだけの勇気はないけど、きっと月奈だけは特別なんだ。
目の前の炎はそのうち消えてしまうけど、月奈との関係は絶対に消えないような、そんな気がするのは心の中にしまっておくことにしよう。




