14.陰キャ男子と文化祭④
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聞こえてきた悲鳴に慌てて出てくると、明らかに注目の集まっている一角を発見する。
机の上には溢れた飲み物と倒れたコップ。その席にはガラの悪そうな人が座っていて、すぐ近くでトレイを持って怯えているのは神木さんだ。
よく見るとお客さんの服は少し濡れていて、どうしてこの状況になったのか近くにいた女子に尋ねてみる。
「ちょっといいかな。あれ、一体どうしたの?」
「ひゃうん!?や、山倉くん……!?あ、え、えっと…あそこのお客さん、私たちは怖くて接客できなかったんだけど、美波ちゃんが対応してくれて…」
「うんうん。それで?」
「それで、美波ちゃんがジュースを運んだまま転んじゃって…。でっ、でも私見てたの!あの人が足を出して転ばせてたところ!」
「へぇ。それは…」
穏やかじゃないね。暴力を振るわれてはいないみたいだけど、足をかけたって証拠はない。言いがかりだと言われて逃げられるだけだ。
くそっ、僕が呑気に休んでなければこんなことには……。
不甲斐なさのあまり唇を噛んでいると、何も言わずに柳沢さんが前へ出る。そのまま騒動の中心へ向かうと神木さんを下がらせ、手持ちのナプキンで机と床を拭きだした。
「すみませんお客様、大丈夫でしたか?」
「ああん?どう見ても大丈夫じゃねえだろ。服が汚れちまったじゃねえか、どうしてくれんだよ!」
「申し訳ありませぇん。ですが、お客様がわざと転ばせたという証言もいくつかありまして…」
「証拠はあんのかよ!無いんだったらどう弁償してもらおうかな……」
「それは…………」
男は、舐め回すような下卑た視線を柳沢さんに向ける。神木さんを守ったのはいいけど、君が標的になったら何の意味もないじゃないか。
しかしあの男の人、どこかで…………あ。
そうか…懲りてなかったんだね。なら容赦は要らないか。
「お客様、少々よろしいでしょうか?」
「あぁん?今度は何……………げぇっ!?」
「そんなに驚かれてどうかされましたか?確かに大きな虫は目の前のおりますが………すぐに駆除出来ますので。言いたいことは…分かりますね?」
「あ…あぁ、もちろんだ。だ、だからあの時のことは……」
「それはお客様の態度次第でございます。…………………ハァ…不快だ、さっさと出て行け。そして二度と僕たちの前に現れるな」
「ヒィッッッ!?!?」
多少凄んだだけで男は逃げ出していった。どこかで見たような気がしたと思ったら、神木さんを路地裏で襲ってたチャラ男の一人だった。あの時大男にのしかかられてたから、物理的に痛い目に遭ったはず。
だからまあ逃げ出す気持ちも分かるんだけど………やっぱり小物だったね、あいつ。ちなみに逃げ出したって言ったけど、外部客が校内を走り絵面は普通に考えて異常事態なので、少なくとも校門の守衛さんには捕まるだろう。
ご愁傷様。
周りの人たちは何が起こったのか分からずにポカンとしていたけど、僕はそんな彼らを尻目に当事者の一人、あるいは二人の元へ。
「神木さん、大丈夫?怪我はなかった?」
「うん、全然平気だよ!」
「ちょっと、あたしは~?」
「柳沢さんは何も考えずに出ていっただけで何もしてないでしょ」
「失礼な。あたしだってキミが助けてくれると思ったから美波を守るのを優先したってのに」
「なんて他人任せな………」
柳沢さんの考えは間違ってないけど、もし僕が行かなかったらどうするつもりだったのか。
結果オーライ、細かいことを気にしても仕方ないんだろうけど、僕がいつでもそばにいる訳じゃない。
そういう考え方はどうしても好きになれないな。
「まあ、お小言は後でたっぷり言わせてもらうからね」
「や、やだなぁ。みんな無事だったしいいじゃ~ん。だからお説教はほんとにやめて下さいお願いします」
「…………反省してる?もう勝手に危険なことはしないって誓える?」
「ち、誓う!誓います!二度と迷惑かけないから、許してください!」
うーん、少し勘違いしてるみたいだ。僕は別に迷惑はかけられてもいいと思ってる。
今回はそれが柳沢さんが傷つけられる可能性があったから怒ってるだけで、そうでないのなら僕は喜んで手を貸すと思う。
彼女はどうにも自分の身を顧みない部分がある。なぜそうなってしまったのかは分からないけど、抵抗する力を持たない彼女にとっては致命的な問題になってしまう。
だから僕たちは、この事についてしっかりと話す必要があるんだ。
「あのね柳沢さん。柳沢さんはとても優しいから、親友の神木さんを助けようとした気持ちは分かる。でも、それで自分が嫌な目に逢うとは思わなかったの?」
「……思わなかった。美波を助けなきゃって必死で…。いつかこうなる可能性は低くないって分かってたのに、ちゃんと対策しておかなかったあたしの責任だ、って……」
「そっか。でも柳沢さんは自分で言ってたよね、か弱い女の子だって。そのことはちゃんと理解してる?」
「…………………………」
「僕が居るときは守ってあげられるけど、そうじゃなかったら君はどうなるか分からないんだよ?だから僕は怒ってるんだ。柳沢さんは賢いから、言ってることの意味、分かってくれるよね」
柳沢さんは少しの間黙っていると、おもむろに僕の手を掴んでスタッフルームの方に引っ張っていく。
「や、柳沢さん?」
「ごめん、机片付けておいて!………キミはこっち」
「えっ、ちょ」
力の入っていないその手は、僕には振り解くことができなかった。




