虎之助の兄
虎之助が帰ったあと、斉藤は自分の書院に永倉を呼び出していた。
壬生屯所ーー斉藤の書院にて。
「新八、これを見てくれ」
斉藤がおもむろに書状を見せた。
「これは?」
「……これは俺の趣味の書状だ。いつか手合わせしたいと思っている相手が書いてある」
永倉が呆れたようにため息をついた。
「はじめぇ、お前趣味まで刀なのかよ」
「……俺にはそれしかないからな、それよりここを見てくれ」
そう言って斉藤が指差した名前の欄には「黒崎 豹魔」とあった。
「黒崎豹魔?こいつがどうかしたのか?」
「こいつはおそらく虎之助の兄だ」
「なんだってぇ??」
永倉は驚いた。
さっきまでここに来ていた虎之助の兄が、はじめの名簿に載ってるヤツだったなんて。
「虎之助は獣のような男と言っていたが、俺は人間以外と手合わせしたいと思わない」
「だから?」
「虎之助の兄が獣みたいな男というのはあり得ない」
永倉は斉藤の話を聞いてずっこけそうになった。
どういう基準だ!
「どういう基準だよ!大体それはお前の趣味の書状だろ?虎之助の兄っていうのも疑わしい。どこに信憑性があるってんだ!」
「まぁ待て。もし本当にこの黒崎が虎之助の言う通り獣のような男だとしたら、京都の治安を脅かすことになる。もちろん容保公も。何より敏姫様のことも……」
敏姫様はようやく生き直している最中だ。
あの方が傷つく姿は見たくない。
「はじめ、おメェ……」
「仔細を調べて、容保公に伝えよう。新八、協力してくれるか?」
永倉はしばらく考えた。
なんの手がかりもなく探し回っても徒労に終わりかねない。
「……どうやって調べるんだ?」
「話によると、ある廃寺に最近ならず者たちが住み着いたらしい。そこには道場もあって剣の稽古もできるそうだ」
「…………」
しばらくの沈黙が書院に落ちる。
「……で、はじめはそこに黒崎がいるって読んでるんだな」
「……ああ、おそらくな」
永倉は斉藤を見て思った。
こいつ、普段は物静かなのに、刀のことになるとめちゃくちゃ喋るな……と。
杉野は斉藤さんが新撰組で一番好きなのでこれからも斉藤さんは事あるごとに出てきます。
最後まで読んで頂きありがとうございました。




