虎之助はとめを守りたい
気がついたら自分の過去の話をし始めた虎之助。
意外にも浪士達は真剣に聞いてくれて……
俺の血の気が音を立てて引いていく。
きっと傍目にもわかるほど酷い顔をしていたはず。
「虎之助、もういいぞ。苦労したんだな!」
永倉さんが優しく肩を抱いてきた。
きっと俺の酷い顔を見て、気を遣ってくれたんだ……
なんと優しい人達の集まりだろう。それに比べて兄貴は……
「……それから俺は、荷車にありったけの食糧を積んで家を出て、当てもなく街道を歩いた。とにかく家から遠い場所へ。家から離れられればなんとかなると信じて……少なくともあの家には戻りたくなかった」
そこで知り合ったのが敏姫様に仕えている侍女のとめだった。
とめにはそれから何度も助けられた。
今の俺がいるのはとめのおかげでもあるんだ。
だから、今度は俺がとめを守ってやりたいのにな……
「そうか、おとめさんとはそんないきさつで知り合ったんだなぁ」
「ええ、あいつ。俺が困ってるって聞いたら売り値の額よりも上乗せしてきて、『私も困ってる奴の気持ちはわかるからさ』とか言って押し付けてくるんです」
「はっはっは!おとめさんの押しがつぇぇのは昔っからだったか!」
「……えっ、他に何かそういう話があるんですか?あいつの……」
がはは、と笑う永倉さんが気になって聞いてしまった。
永倉さんはこの間の『局長事変』のことを話してくれた。
「そんでおとめさん怒って帰っちまったんだ」
「ふっ、あの時の局長はおとめさんにビンタを喰らって面白かったな……」
汗を拭きながら、土方さんが笑う。
……色男は汗までかっこいいのか……
いや、今はそんな場合ではなくて!
「……局長さんまでとめに……」
俺は焦った。ぐずぐずしていたら、局長さんにとめを取られるかもしれない!
「お、俺はこれで!仕事を思い出しましたんで!」
ガタガタッ!
「はっはっは、忙しない男だ」
* * *
虎之助は慌てて荷を詰め込んで、荷車を引っ掴んだ。
「……待て」
「えっ……斉藤さん?」
「すぐ済む」
斉藤は虎之助を止めると、若干言いにくそうに口を開いた。
「……お前、武家だった時の苗字は?」
「……?黒崎ですけど……それが何か……」
「いや、少し気になっただけだ……」
虎之助はそこで何かを思い出したように声をあげた。
「あっ!そういえば俺が武家の生まれってことはとめには内緒にしといてください!」
「……何故だ?」
心底わからないというかのように斉藤が首を傾げる。
「あいつに知られたらきっと死ぬまで揶揄われるからです!」
虎之助はそう言って、荷車を黒谷方面へと走らせた。
多分だけど虎之助の片思いで終わりそうな気がします笑
最後まで読んで頂きありがとうございました。




