酒売りの虎之助
ここは壬生屯所の演習場。憧れの土方の剣技を見ながら虎之助は酒を売っていた。
俺は虎之助。
今俺は憧れの新撰組で、憧れの土方歳三さんの剣の稽古を見ているところだ。
俺の仕事は薬売りだが、最近は酒も売ったり、菓子も売ったり飯も売ったりしてる。
要するに今の俺はなんでも屋だ。
なんでも売ってるうちに新撰組の永倉さんと知り合いになり、この度憧れの壬生屯所に出入りでき、憧れの土方さんの剣の稽古を見ているんだけど……
速すぎて太刀筋が見えない……
俺は酒も弱いし、刀も使えない。
でもこれで確信した。
「俺には剣技なんて無理だなぁ」
俺には剣技なんて無理だということに。
「はっはっは、虎之助にはちょっと難しいかもしれねぇな!商人だもんなぁ」
「……まぁ、人には向き不向きがあるしな」
木刀の素振りをしながら土方さんが言う。
木刀の素振りしてるだけでも溢れ出るかっこよさ……
俺もあんな風になりたかったな。
「そうですね……剣技は見るのはいいけど……剣は、危ないです。怖いです」
俺は幼い頃、家に飾られている刀を一度持ったことがある。
その重さと刃先の鋭さに慄き、以来怖くて刀には触っていない。
「こいつァ驚いた!真剣が置いてあったということはお前は武家の出身なのか?」
永倉さんが意外という感じで目を丸くする。
「いえ、いえ、俺はその家はもう出たんで。わかりません……苗字も煩わしくて捨てました」
でも幸いにも兄が剣の達人だったので、弟の俺は割とすんなり家出できました。
俺の言葉を聞いて、斉藤さんが反応する。
「……ほう、剣の達人とは、ぜひ一度腕比べをお願いしたいな」
「えっ!!い、いけません!」
普段もの静かな斉藤さんが思ったより食いついたので俺は焦った!
斉藤さんは俺が焦って反応したことに面くらったのか、若干目を瞬かせていた。
だって俺の兄貴は……
俺の兄貴は……異常だ。
「兄貴は異常なんです。人間っていうより、人間のふりをした獣って感じで。俺が家を出た理由も、半分は兄貴が原因なんです」
俺が物心ついた時から兄貴は酒乱で、酒が切れると手がつけられない。
だから家にいる間はずっと酒の工面をしてました。
幸い、近所の方が優しくしてくれたし……でも。
「ある日俺が思った以上に兄貴が酒を飲んで……用意しておいた分も全部無くなっちまって。あ、兄貴はとうとう……」
虎之助は武家の生まれでしたが、兄の素行が悪くて武家の身分と苗字を捨てています。
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