天然の人たらし
新撰組一の色男、土方歳三の登場に見惚れていたとめだったが、それ以上に敏姫様が自由すぎて……
土方さんが台所に来てから、沖田がいつのまにか近くに来ていた。
「なんだい沖田、珍しいね」
「……あのひと、ちょっと天然だから……」
「えっ?天然?土方さんが?」
私が姫様に視線を戻すと、姫様はまだ包丁を握って野菜を切ろうとしていた。
いや、だから誰か止めてよ!
斉藤、何成長した子どもを見るような目で頷いてるの?
永倉はなんでそこで酒を飲む?!
私が姫様を止めようとしたその時ーー
「……危なっかしい持ち方だな。こうやって持つんだ」
土方さんが姫様の背中ごしに、姫様の包丁を持つ手と、野菜を持つ手に自分の大きな手をそっと触れた。
ええ〜!!ひ、土方さん!それはいくらなんでも距離を詰めすぎでは??
「こうやって持って、そう……初めてなら切りやすいものを選んで……」
ああ〜いい声……
耳が幸せだわ。
私がうっとりとしていると、沖田がこちらを呆れたようにじとりと見ていた。
い、いけないいけない!
「ひ、土方さん。もう少し姫様と距離を置いてくださいな。姫様は容保様のご正室で……」
土方さんが顔を挙げる。
めちゃくちゃいい男!
「だが、姫様自身がやりたいと言い出したのだろう?」
「……は、はい//」
土方さんの涼しげな瞳に見つめられて、私はそれ以上言えなくなってしまった。
「はっはっは!天下のおとめさんも新撰組一の色男には敵わねぇか!」
「ぐっ……」
永倉の言う通りだ。私は土方さんには敵わない。あの黒い涼しげな目で見つめられると、白いものも黒だと言いそうだ。
「……姫様、こっちで僕と野菜を洗うのを手伝ってください」
いつのまにか沖田が野菜桶を用意して言った。
珍しい……いつもなら「僕はそんな汚れ仕事はしない」って言うのに。
「えっ?でも今師匠に包丁の使い方を教わってるのですが……」
いつのまに師匠になったんだ!
でもさすが容保様のご正室。今の一連の土方の仕草を何とも思っていないとは……!
「姫様、どうする?」
低い声で姫様に聞く土方さん。
「土方さんは黙っててください。ほら、姫様」
沖田はそう言って半ば強引に野菜桶に姫様を連れて行った。
「まぁ〜このお野菜たち、ツヤツヤで美味しそうですわ!」
姫様は切り替えが早い。すぐに目の前の野菜に夢中になってしまった。
「……僕は普段こんな事はしないけど……」
(今日は土方さんが来たから)
沖田はまだ固まっている私を見て、呆れたようにため息をついた。
「だから言ったんですよ。土方さんは天然の人たらしだって」
この物語での沖田は少し潔癖です。
最後まで読んで頂きありがとうございました。




