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もう一度、あなたと。  作者: 杉野仁美
第八章 敏姫と屯所と

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石段を一緒に。

結局は敏姫に負けて蛍を見に行くことになったのだが、高台にある黒谷からは石段をくだらないといけなくて……

「……蛍がどうのと聞こえたが……敏は蛍を見に行きたいのか?」


「はい、でもとめにお願いしたらダメだって。着物が汚れるからって……」


「ふふ。とめらしいな……」


 容保は敏姫の体を引き寄せる。ぽすん、と腕におさまる敏姫の体。


「この季節とはいえ、川辺は冷えるぞ……」


「……//」


 敏姫が顔を赤くしながら小さく頷く。


「川辺には近付きません……それに……」


「それに?」


「それに殿も来てくれるんでしょう?」


 敏姫が潤んだ黒い瞳で容保を見つめる。


「……っ、敏……お前は……//」


 襖を隔てた一室で、淡く可愛い恋が色付いている。 

 それはつい先日までは、容保様にも敏姫様にもきっと訪れなかったもので……


 全く、世話が焼けるお人だよ。


 二人とも。


 * * *


 夕暮れ時ーー


 黒谷は小高い場所にある。


 そのため石の階段を降りて川辺に行かないといけないのだが……


 そこでも一悶着あって。


「姫様!籠を使ってください!あの階段は姫様が絶対転けるようにできているんですから!」


 そのようにできている階段などあるはずがない。

 けれど私は姫様を止めるのに必死だった。


「お願いとめ。石段の感触を殿と一緒に踏み締めたいの」


 ああ〜可愛いな!そんな可愛いこと言われたら何も言えなくな……


 ふと見ると、容保様は顔を手で覆っていたが、その顔は赤かった。


(はいはい、わかりましたよ)


「容保様、姫様をくれぐれもよろしくお願いしますよ」


「ああ、任せてくれ。とめ、いつもすまないな」


 容保様が眉根を下げて困ったように微笑む。


「それでは行こうか、敏。足元に気をつけて」


「はい!//」


 淡藤色の着物の裾を揺らしながら、姫様は石段をひとつずつ降りていく。


 夕暮れに染まる黒谷の石段が赤く染まる。 


 川辺に近づくと、水のせせらぎと草の香りがしてーー


「わぁ、流れる川ってこんな音がするんですのね!庭の池とは全然違います」


 力強くて、勇ましくて、でも優しくて。


「殿みたい?」


 私が軽くそう言うと、姫様は図星だったようでーー

 その頬が夕陽みたいに赤くなって。


 容保様も同じように頬を染めて。


 やれやれ、夕餉もまだだってのに、このお二人のおかげですっかり満腹だ。

敏姫は石段の感触も知らないままでした。

敏姫が懸命に『生き直している』ことと短い命を燃やす『蛍』の対比が美しいです。


最後まで読んで頂きありがとうございました。

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