石段を一緒に。
結局は敏姫に負けて蛍を見に行くことになったのだが、高台にある黒谷からは石段をくだらないといけなくて……
「……蛍がどうのと聞こえたが……敏は蛍を見に行きたいのか?」
「はい、でもとめにお願いしたらダメだって。着物が汚れるからって……」
「ふふ。とめらしいな……」
容保は敏姫の体を引き寄せる。ぽすん、と腕におさまる敏姫の体。
「この季節とはいえ、川辺は冷えるぞ……」
「……//」
敏姫が顔を赤くしながら小さく頷く。
「川辺には近付きません……それに……」
「それに?」
「それに殿も来てくれるんでしょう?」
敏姫が潤んだ黒い瞳で容保を見つめる。
「……っ、敏……お前は……//」
襖を隔てた一室で、淡く可愛い恋が色付いている。
それはつい先日までは、容保様にも敏姫様にもきっと訪れなかったもので……
全く、世話が焼けるお人だよ。
二人とも。
* * *
夕暮れ時ーー
黒谷は小高い場所にある。
そのため石の階段を降りて川辺に行かないといけないのだが……
そこでも一悶着あって。
「姫様!籠を使ってください!あの階段は姫様が絶対転けるようにできているんですから!」
そのようにできている階段などあるはずがない。
けれど私は姫様を止めるのに必死だった。
「お願いとめ。石段の感触を殿と一緒に踏み締めたいの」
ああ〜可愛いな!そんな可愛いこと言われたら何も言えなくな……
ふと見ると、容保様は顔を手で覆っていたが、その顔は赤かった。
(はいはい、わかりましたよ)
「容保様、姫様をくれぐれもよろしくお願いしますよ」
「ああ、任せてくれ。とめ、いつもすまないな」
容保様が眉根を下げて困ったように微笑む。
「それでは行こうか、敏。足元に気をつけて」
「はい!//」
淡藤色の着物の裾を揺らしながら、姫様は石段をひとつずつ降りていく。
夕暮れに染まる黒谷の石段が赤く染まる。
川辺に近づくと、水のせせらぎと草の香りがしてーー
「わぁ、流れる川ってこんな音がするんですのね!庭の池とは全然違います」
力強くて、勇ましくて、でも優しくて。
「殿みたい?」
私が軽くそう言うと、姫様は図星だったようでーー
その頬が夕陽みたいに赤くなって。
容保様も同じように頬を染めて。
やれやれ、夕餉もまだだってのに、このお二人のおかげですっかり満腹だ。
敏姫は石段の感触も知らないままでした。
敏姫が懸命に『生き直している』ことと短い命を燃やす『蛍』の対比が美しいです。
最後まで読んで頂きありがとうございました。




