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もう一度、あなたと。  作者: 杉野仁美
第七章 浪士たちそれぞれの想い

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不器用な優しさ・斉藤

永倉と竹刀の刀比べをしたあと、道場では沖田が一人愛刀の手入れをしていた。そこへーー

 竹刀比べの翌日ーー壬生屯所にて。


 道場の隅。


 沖田は一人で愛刀菊一文字の手入れをしていた。


 昨日よりは静かで、殺気もない。

 だが、機嫌が直ったわけでもない。浪士達はまだ恐れて遠巻きに見ている。


「……」


 と、そこへ。沖田の機嫌などどこ吹く風と言わんばかりに。


「総司」


 初代熊……斎藤一が現れる。


「……何すか、斉藤さん」


「稽古するか」


「嫌です」


 沖田は即答した。負けるのが怖いわけではない。

 また永倉のように打ち合いながら説教をされたくなかったからだ。


 斎藤は「そうか」とだけ返す。

 だが斎藤は帰らず、道場の柱へ寄りかかり、黙って座った。


「……何なんですか」


「別に」


「暇なんですか」


「まぁな」


 沖田は眉をひそめる。


(絶対暇じゃないだろこの人)


 屯所で一番仕事を抱えてるくせに。いつ食べてるか、どこで休んでるかも不明。


 斎藤一。新撰組随一、分かりにくくて食えない男。


 ぱち、と油紙の音だけが響く。


 やがて斎藤がぽつりと言った。


「……お前、最近よく笑われてるな。姫様に」


「は?」


「……」


 沖田の手が止まる。


「……馬鹿にされてるって言いたいんですか」


「違う。楽しそうにされてる」


「……意味わかりませんよ」


「俺もよくわからん」


 斎藤は本当にわかっていない顔で言う。


「だが、あの姫様は、お前を見る時だけ少し違う」


「……」


「怖がってない」


 その一言が。


 沖田の胸に、妙に重く落ちた。


「……だから困るんですよ」


 小さく漏れる本音。


 普通ならこの浪士達のように僕を怖がるはずなのに。あの姫様はおそれも逃げもしなかった。


 そればかりか向かってきた。

 僕の知らないやり方で。


 許しを乞うてきた。


 ーー自分が生き直す事を。その瞳が剣よりも何よりも強くて。


 ……悔しい……羨ましい。


 世間知らずのくせに自分の知らない力を持っているあの姫様が、妬ましい。


 ーーでもそれと同時に何故か惹かれてしまう。


「……」


 斎藤はそれ以上聞かなかった。


「……総司」


「……」


「お前、昔より顔が柔らかくなった」


「は?」


「前はもっと、酷い目をしてた」


 沖田は言葉を失う。


 斎藤は視線を沖田へ向けないまま続けた。


「……悪くない」


 それだけ言って立ち上がる。


「稽古するなら呼べ」


「……」


「八つ当たりでも付き合う」


「……斉藤さん」


「何だ」


 沖田は少し迷って。


 結局、いつものように憎まれ口を叩いた。


「……それ、慰めてるつもりですか」


 すると斎藤は珍しく、少しだけ笑った。


「さぁな」


 そして静かに去っていく。


 残された沖田はーー


「……変なの……」


 そう呟きながら。


 昨日より少しだけ穏やかな顔で、愛刀を握り直したのだった。


斉藤はほとんど喋らないのでわかりにくいですが仲間思いの優しい熊と私は解釈しています。


最後まで読んで頂きありがとうございました。

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