拗ねたガキ
容保の部屋で、竹刀の刀比べの報告に来た永倉。
その口から語られる言葉を、容保は黙って聞いていた。
「総司のやつ、自分でもどうしてイラつくのかわかってねぇみたいでした」
「……そうか」
「でも」
永倉は真っ直ぐ容保を見る。
「あいつ、敏姫様を壊してぇわけじゃねぇです」
その言葉には、不思議な説得力があった。
剣を交えた者にしかわからない何かがあるのだろう。
しばらく沈黙が落ちる。
やがて容保は、静かに目を伏せた。
「……そうか」
短く。
だが今度の声は、先ほどより柔らかかった。
「大儀だったな、新八」
「いえ」
永倉は照れくさそうに頭を掻く。
「俺ぁただ、あいつが拗ねたガキみてぇに見えただけでさぁ」
その言葉に、容保はふっと笑った。
「……お前は、人を見る目があるな」
「そりゃどうも」
永倉がにっと笑う。
部屋の空気が、少しだけ軽くなる。
その時。
廊下の向こうから、ぱたぱたと軽い足音が聞こえた。
「殿ー!」
パタパタと可愛いらしい足音と、敏姫の声。
永倉が吹き出す。
「……忍び足はまだ修行不足みてぇですな」
「……ああ」
容保の表情が、ふっと和らいだ。
障子が勢いよく開く。
「殿!聞いてくださいませ、今日私ーー」
楽しそうに話し始める敏姫を見ながら。
容保は静かに思う。
(……守らねばな)
この笑顔を。
そしてーー黒谷に生まれ始めた、この穏やかな時間を。
すみません少し短めでした。
最後まで読んで頂きありがとうございました。




