竹刀の刀比べ後
沖田と竹刀で打ち合ったあと、永倉は容保の書院を訪れた。
その日の夜――黒谷のお屋敷。
書院には静かな灯りが落ちていた。
松平容保は文机に向かいながらも、筆はほとんど進んでいなかった。
視線は書状へ向いている。
だが心は別の場所にあった。
――沖田総司。
敏姫と向き合った時の、あの男の目。
どこか危うく、何を考えているかわからない空気。
(……敏)
容保は小さく息を吐いた。
あの時、敏姫は沖田を庇った。
……それが気がかりだった。
コン、コン。
静かなノックの音。
「……入れ」
障子が開き、現れたのは永倉新八だった。
「夜分に失礼しまさぁ」
「新八か。どうした?」
永倉は部屋へ入ると、いつもの豪快さを少し抑えた様子で頭を掻いた。
「……ちょいと、総司のことで」
その言葉に、容保の目がわずかに細くなる。
「……何かわかったか」
「ええ、まぁ」
永倉は胡座をかき、ふぅと息を吐いた。
「今日、あいつと竹刀交えながら話してきました」
「……竹刀を?」
「言葉だけじゃ、あいつぁ本音出しませんから」
永倉は苦笑する。
「んで、結論から言いますと」
一拍置いて口を開く。
「あいつに、敏姫様を傷つける気はねぇです」
「……そうか」
容保の肩から、わずかに力が抜けた。
その小さな変化を、永倉は見逃さなかった。
「ただまぁ……戸惑ってるんでしょうな」
「戸惑う?」
「あいつぁ剣しか知らねぇで生きてきた男ですから」
永倉は遠くを見るような目をした。
「人を斬る。人に恐れられる。強ぇ奴を斬る。
命のやり取りをする。そういう世界で生きてきた」
静かな声はまるで子どもをあやすように。
「だから姫様みてぇな人は、初めてなんでしょう」
「……」
「怖がらねぇ。疑わねぇ。それでいて、人の痛みには妙に敏感で……」
永倉は思い出したように笑う。
「そりゃ調子も狂いますよ」
容保は永倉の言葉を黙って聞いていた。
思ったのですが、この時代の刀比べは竹刀か木刀でやってたと思いますが、普通に痛いですよね(唐突)
最後まで読んで頂きありがとうございました。




