熊二人と容保
夜更けの黒谷の一室。容保は斉藤と永倉を部屋に呼んでいた。
夜更けの黒谷ーー
人の気配もまばらになった頃。
会津藩・黒谷のお屋敷の一室では、静かに碁石の音が響いていた。
――コト……
「……」
盤を挟んで向かい合うのは、松平容保と斎藤一。
その少し離れた場所では、永倉新八が胡座をかいて酒を呑んでいた。
「いやぁ〜、今日は笑わせてもらいましたよ」
永倉が盃を揺らしながら豪快に笑う。
「姫様の忍び足!」
「……」
斎藤は無言のまま石を置いた。
「……あれでも敏は本気だったのだ」
容保が少し困ったように眉を下げる。
「……だからこそ、気づかぬふりをした。私を驚かせようとする姿が健気でな……」
「そりゃあそうでしょうよ。あんな嬉しそうな顔されちゃあなぁ」
永倉が酒をあおる。
「『殿、驚きました?』でしたっけ?」
「……っ//」
容保の耳がわずかに赤くなった。
「……新八」
「いやいや、俺でもあれは褒めますって」
「……俺も褒める」
斎藤が静かに言った。
「……敏姫様は嬉しそうだったな」
「だろ?だからいいんですよ」
永倉はからからと笑う。
その様子に、容保はふっと小さく息を吐いた。
「……二人とも」
碁石を指先で撫でながら、静かに言う。
「私の芝居に合わせてくれて、ありがとう」
部屋が少し静かになる。
「……芝居というほどではありません」
斎藤が答えた。
「姫様が楽しそうなら、それでいい」
「そうそう。姫様、最近よく笑うじゃないですか」
永倉も続ける。
「前は床に伏せってたんでしょう?だったら今くらい好きに笑ってもらわねぇと」
「……ああ」
容保の目元がわずかに和らぐ。
敏姫が笑う。
それだけで、この広い屋敷が温かくなるようだった。
忍び足実践の、その後の話でした。
最後まで読んで頂きありがとうございました。




