沖田だけは違う温度
すっかり忍び足が成功したと思い込んでいた敏姫だったが……
姫様は褒められて嬉しかったのか、頬を赤く染めて俯いてしまった。
その光景に、永倉が満足げに拍手をした。
「すげえ!」
「……見事だったな」
斉藤もうんうんと頷いている。
(いやいやいや!!)
私は呆れて思わず顔を塞ぐ。
ーーその時。
「……全然できてませんよ」
その声に場の空気が凍った。
振り返ると沖田が、いつのまにか柱の影に立っていた。
「足音、最初から最後まで全部聞こえてましたし。むしろ『今から行きますよー』って言ってるみたいでしたね」
「……え?」
敏姫様が固まる。
「総司」
低く斎藤が呼ぶ。
「余計なことを言うな」
「事実です」
沖田はそうあっさり返す。
「……でも」
沖田は首の後ろをさすりながら言いにくそうに口を開く。
「……それでも気づかないふりをする人がいるならーー」
そう言うと沖田は容保を見る。
「それはそれで成立するんじゃないですかね……」
「……」
容保は何も言わない。
ただ、静かに敏姫の頭を撫でていた。
「……よくやった」
容保様のその一言で、敏姫様は、ほっとしたように微笑んだ。
「はい!」
(あーもう、何か全部もういいや)
私は小さくため息をついた。
結局はこの人たち、全員姫様に甘いんだわ。
……一人を除いては。だけど。
「……変なの……」
沖田総司だけが、違う温度で燻っていた。
沖田だけはまだ距離を押し測っている様子ですね。
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