忍び足実践編
浪士達に褒められて、すっかり乗り気になった敏姫は容保公を驚かしに行く。
その日の夕刻ーー
廊下の奥の静かな書院で。
松平容保が、文机に向かっていた。
一日そこらで忍び足が身につくはずもないのに、姫様は「殿を驚かせたい」らしく……
可愛い……そんな可愛いわがまま姫様にしか思い浮かばないよ。
私なら忍び足が身に付いたらいの一番に台所の食いもんを食い散らかして……
などと私がよからぬ考えを巡らせているとーー
柱の陰から、敏姫様がひょこりと顔を出した。
その後ろで真顔で見守る熊二人。
私はそのシュールな様子に思わず吹き出しそうだった。
「……」
「……」
(絶対バレる)
(バレるな)
熊二人の心の声が聞こえるようだ。
熊二人と私が、それぞれ違う場所で見守っていると、敏姫様が、そっと一歩踏み出す。
――す……
もう一歩。
――ぺた
(いや音してる音してる!!)
でも本人は真剣そのもの。
「…………」
(……気配がする、敏か?)
容保様は筆を動かしながら、わずかに目を細めた。
ふふ、と僅かに口角をあげて。
(気づかぬふりをするか)
――す……
――ぺた
ついに背後まで到達。
そして、容保様の両目を後ろから小さな手で隠す。
敏姫様が小さく息を吸う。
「殿!」
容保がゆっくり口を開く。
「……敏か」
「驚きました?」
きらきらした瞳で、後ろから容保様の顔を覗き込む。
「……ああ。驚いたよ」
(絶対気づいてたでしょ!!)
「やりましたわ!」
「見事だな」
容保様はそう言いながら優しく姫様の頭を撫でる。
「……//」
姫様は褒められて嬉しかったのか、頬を赤く染めて俯いてしまった。
浪士組も甘いですが、容保公も敏姫様にはゲロ甘です。
最後まで読んで頂きありがとうございました。




