私たちみんな、馬鹿だからさ
虎之助の話をひとしきり聞いたあとの斉藤の反応は意外なものだった。
斉藤はしばらく黙っていた。
二人の間にあの時と同じ静寂が満ちる。
違うのは斉藤の空気感だった。あの時の斉藤は怒りと殺気に満ちていたというのに、今は優しく労るような雰囲気だ。
「……お前は武力を持たないながらも知恵を出して何とかおときを救おうとした。小太郎に話し、一番身軽な椿を頼って……」
その優しい言葉を聞き、虎之助の瞼に熱いものが込み上げてくる。
「……でも一番告げるべき斉藤さんには言えませんでした。俺はおときさんのことより自分の恐怖を優先したんです」
「虎之助、あんたは一般人だ。新撰組の組長の殺気を恐れて当たり前さ。しかも斉藤はおときのことになると殺気を隠そうともしない、だろ?斉藤」
おとめが茶を運んで話に割って入る。
「…………」
斉藤はおとめの問いには答えず、申し訳無さそうに頭をかいた。
「……それに、虎之助はおときを自由に遊ばせたかったんだろ。いつもと違う装いで浮かれてるおときを」
お茶を置きながらおとめは斉藤を見上げる。
「……私も虎之助の立場だったらそうする。おときのあんなはしゃいだ顔を見たら」
おとめは仕方無さそうに首を振る。
「私たちみんな、馬鹿だからさ」
「…………ッ!」
おとめの言葉に、虎之助は肩を揺らす。
「それでもごめん……ごめんなさい」
「……いいんだ。もう……」
言いながら斉藤は永倉に追いかけられてはしゃぐおときを見る。
「……おときは助かった。それでいいんだ」
斉藤の変わらぬ優しい声に、虎之助はついに大粒の涙をこぼした。
誰にも正解なんてわからない。でもそんな中で虎之助の咄嗟に判断する能力はすごいと思います。
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