虎之助の後悔
斉藤の前に放り出された虎之助だったが、思うように言葉が出てこなくて……
「……斉藤さんが何というか……」
「斉藤?斉藤も私と同じこと思ってると思うよ」
おとめは虎之助の襟首をつかんだ。
「ほら、ごちゃごちゃ言ってないで入んな!」
「ちょっ、待て!俺はまだ……!」
「うるさい!あたしが許可する!」
「いや、お前にそんな権限が……!」
「あるんだよ!幼馴染の特権さ!」
そのまま厨房へ引きずられていく虎之助は、ペイッと斉藤の座っているところに放り投げられた。
「斉藤、あとは頼んだ!」
「…………」
「さ、斉藤さん……」
斉藤は無言で目の部分だけくり抜かれていた穴から虎之助を見ていたが、やがてバサリと被っていた布団を取り外した。
「さ、斉藤さん……すみません。兄貴が……」
言いたいことは沢山あるのに、上手い言葉が出てこない。普段はコミュ力の高い虎之助が、こんな時には全く話せない。
なんせ虎之助も豹魔に長いこと苦しめられた一人だ。
「……長い間、兄の所業を見て見ぬふりしてきました。でもまさか、俺が良かれと思ってした事が結果的におときさんを……」
虎之助は自分の軽率な行動を悔いていた。
おときのわがままを聞かずにそのままおときを連れ立って屯所に帰ってきていれば。
そのまま三条に留まり、おときと一緒に過ごせば。
何度も何度も同じ事を考えていた。
「たられば」を言っても仕方ないというのに……
「……虎之助……」
静かな声が、俯いたまま動かない虎之助の上に落ちた。
「……仕方ない。お前は戦う術を知らない一般人だ。もしあのままおときと一緒にいても、豹魔やその郎党に一方的になぶられていただけだ」
無論、おときも一緒に……
斉藤はその言葉をあえて飲み込んだ。容易く想像はできるが、口にしたくはなかった。
斉藤さんは思ったより冷静です。ていうところも良いですよね。
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