おときには敵わない
ひとしきり斉藤の胸の中で泣きわめいたおときは泣き疲れて眠そうにしていた。
「…………」
泣いてスッキリしたのか、今度はおときは船を漕ぎ始めた。そのまるで子どものような所作に、斉藤が思わず笑みをこぼす。
「おとき、眠るか?」
「……んーん、はじめしゃんの側にいたいです」
「……俺は側にいる。心配ない。疲れているのだからもう寝なさい。ふらふらじゃないか」
斉藤はようやくいつもの調子を取り戻したおときに、ほっとしたように微笑み、安心させるようにおときの手を握る。
「…………」
顔を挙げたおときは斉藤の目をじっと見た。
「ん?何だ?菓子が欲しいのか?」
「…………はじめさんが接吻してくれたら寝るかもしれません」
「ゲホ!ゲホ!」
おときの思わぬ提案に、思わず斉藤は咳込んだ。
大真面目な顔で何を言い出すかと思えば……
「おとき、馬鹿な事を言ってないでもう寝なさい。俺は側にいるから」
「いえ!はじめさんが接吻してくれなきゃ、私は寝ません!」
おときはこういう時には頑固であった。もう眠気が限界であろうに、斉藤からの接吻がなければがんとして寝ないつもりだ。
斉藤は覚悟を決めた。
いきなり現れた粗暴な男に酷い目に遭わされ、恐怖を感じながらも、かんざしは守りぬいた強いおとき。
かと思えば、『接吻してくれたら寝る』という可愛い願望を曲げない頑固なおとき。
(全く……おときには敵わんな)
斉藤はおときの頬を軽く撫で、まだ少し涙に濡れている瞳を見た。
その瞳が、とても綺麗で。
おときの瞼がゆっくりと閉じて、その綺麗な瞳を隠していく。
「……はじめさ……ん……」
どんなに強い剣豪に勝とうと、黒崎豹魔のような粗暴な男に勝とうとも、きっと俺はおときには敵わない。
おときの安らかな寝顔を見ながら、斉藤はそう思うのだった。
今夜は朧月夜。
長い夜がゆっくりと更けていった。
斉藤はさっきまで大男と対峙していた男と同一人物です。笑
やっぱりこのカップルいいですね。
長かった斉藤さんとおときの物語は一応これで終了です。あとは虎之助がどうするか……
最後まで読んで頂きありがとうございました。




