番外編・神保修理のゆううつ・終
容保の雰囲気が「お殿様」のそれに変わった。
その変わりように修理は思わずたじろぐが……
容保の態度の変わりようには、思わず土方も斉藤も背筋を伸ばし、修理も言葉に詰まる。
「なぁ、修理。お前もなかなかの顔だ。どうだ……俺と共に勝負をしないか?」
そう言って容保は修理に顎クイをかました。
「そ、そんな……」
芸妓たちの目の前に、美形の男二人が今にも接吻しそうな距離にいる。
しかも片方の正統派イケメンは先程とは打って変わって色気が三倍増しになっている。
そんな男がもう一人のイケメンの男の顎を撫でる。
「まぁ……なんと美しい……」
「美しい殿方が二人……しかもこの構図的におそらく身分差、ゴクリ……」
「私実は殿方たちのこんなシチュエーションが大好物なんです!」
「誰か!墨と紙を持ってきて頂戴!この尊いカップリングを後世まで絵に描いて残すわ!」
その場にいた土方が片手で額を覆い、斉藤は無言で天を仰いだ。
「……なぁ修理……いいだろ」
「殿……これ以上は……勘弁してください」
容保は芸妓たちのどよめきにノリノリだった。
もっとしてやれと容保が調子付いたその時ーー
「殿!いい加減にしてください!」
そこには薙刀を容保に向けて構える勇ましい女子が凛として立っていた。
「おお!お主は……お雪と言ったか。主君に向かって薙刀を構えるとはなんと勇ましい!はっはっは!」
容保は笑っているが、神保修理は青ざめていた。いくらお雪が敏姫様付きの侍女であっても、主君に武具を向けるなど……
「今はそんなこと関係ありません!殿のこんなお姿、敏姫様が見たらどうなさいますか?」
お雪の言葉に、容保の目が見開き、さっきまで修理の顎に添えられていた手はするりと外された。
「……ああ、敏……」
「……やっと目が覚めましたか殿!!お帰りいただきます!!」
「わ、わかった! わかったから、そんなに怒るな!」
「ではまず芸妓さんたちに謝ってください」
「はい……」
先ほどまで正統派イケメンを自称していたり、修理と衆道もどきのことを繰り広げていた男が、すっかりしょんぼりして立ち上がる。
土方は口元を押さえて誤魔化しているが、笑っているのは明らかだった。
斉藤も無表情だが、肩を震わせて笑いを堪えていた。
「……ところで土方ァ?」
修理に首根っこを掴まれて連行される直前、容保はふと思い出したように振り返った。
「勝負の結果はどうなった?無論俺の圧勝だよな!」
「殿!!」
ゴンっ!
「いてぇっ!!」
修理の拳が、再び容保の頭に落ちた。
「殿!いい加減にしてください!殿は会津の藩主ですよ(今は中身が違うかもしれないけど)」
祇園の夜に、神保修理の悲痛な叫びが響き渡った。
容保の顎クイが書けてよかったです。敏姫の名前を聞いて我に返る容保公が好きです。
最後まで読んで頂きありがとうございました。




