斉藤の刀を止めたもの
ふわりと、鈴蘭の香りがした。
斉藤が刃を振り下ろそうとした、その時。
ふわり。
微かに、鈴蘭の香りがした。
「……はじめさん」
背後から聞こえた、聞き慣れた声。
斉藤の指が、刀の柄を握ったまま止まる。
「はじめさん……」
小さなぬくもりが、斉藤の背中を抱きしめてきた。
夏の風鈴のような耳触りの良い声。
微かに香る、鈴蘭の香り。
そして、この殺気の中に平気で突っ込んでくる無謀な存在。
こんなことができるのは一人しかいない。
「私は大丈夫です」
涼やかな声が、初夏の風のように透き通る。
「『まいにち、あなたをおもっています』」
「…………っ……」
それはまさに、おときがまだ「あ」と「お」の区別が付かず、斉藤の書院で文字を習っていた時。
「あ」と「お」の区別ができた褒美にと、一緒に真珠の櫛を買いに、二人で街に出た時。
真珠の櫛を盗人に見つけられて、おときがその盗人に害されそうになった時。
斉藤がおときを守ろうとして、盗人に斬りかかった時。
斉藤の動きを止めた言葉だった。
(おとき……お前は……)
「『まいにち、あなたをおもっています』」
おときはそう言って、斉藤の背中に頬を擦り付ける。
おときのその言葉に、すっかりさっきまでの毒気を抜かれた斉藤は刀を納め、代わりに腰に回された小さな手を、確かめるように握った。
「なっ……」
豹魔は初めてこの殺気の渦の中に入ってくる人間を見た。
帯刀もしていない、武力を持たない無謀な人間をーー
それはあまりに可憐で、小さくて。しかも女子
「嘘だろ……」
おときさんが斉藤さんを止めたのはこれで三回目です。
盗人から斉藤がおときを守るエピソードはまだ二人が恋人同士ではない時、ep.117の「まいにち、あなたをおもっています」を読むとそういう事ォ?てわかると思います。
それにしてもおときさん無謀すぎる。
最後まで読んで頂きありがとうございました。




