流暢な言葉の代わりに
危険な男・黒崎豹魔からおときを離した斉藤はおときの身を案じる。けれどおときの弱々しい声は謝罪を紡ぐばかりで……
ーー違う。悪いのはおときではない。
おときはただ楽しみたかっただけだ。一人で京都の街を歩いてみたかっただけだ。
俺からもらった鈴蘭のかんざしを着けて、ちょっと見せびらかしてみたかっただけだ。
そんな純粋な思いで街に来ただけだ。
『えへへ……嬉しい。これから毎日師匠を想って着けますね』
鈴蘭のかんざしを贈った時の、おときの微笑みが浮かぶ。
悪いのはおときではない。
悪いのはーー……
(おときを守れなかった俺だ)
「……すまない……おとき……」
聞こえるか聞こえないかの声で、おときに話しかける。
斉藤は流暢に言葉を紡げない。歯の浮くような口説き文句も、その場を取り繕うだけの嘘も、守る気がない約束もできない。
代わりに、おときに謝罪の言葉を落とす。
それは心からの、絞り出すような言葉だった。
(こんな時に、こんな事しか言えないとはな……)
斉藤はそう自嘲しながらおときをもう一度強く抱きしめた。驚いた。腕の中のおときはこんなに小さかっただろうか?
斉藤の腕の中で、安心したようにおときは微笑んだ。
「それから……はじめさん」
「おとき、もう話さなくていいから……」
「ありがとう……あの言葉、嬉しかったです」
「……あの言葉?」
「『恋人だ』って……言ってくれて……//」
ドクン!
『……おときは俺の恋人だ』
「そ、それは……//」
安心したのか、おときは斉藤の胸に顔を埋めるようにして眠りについた。
斉藤はおときのその様子を見、ここに来て初めて安堵の息を漏らした。
斉藤さんが流暢に愛の言葉を口にできないことも、おときさんはちゃんとわかっていると思います。
最後まで読んで頂きありがとうございました。




