おときは俺の恋人だ
豹魔に髪を掴まれて好きなようにされているおときの涙を見て、思わず斉藤はブチ切れた。
(はじめさん……)
その瞬間、おときの瞳から涙が溢れる。
その涙を見て、斉藤の中の何かがキレた。
普段は静かな男が、初めて感情をむき出しにした!
目の前の男の得体も知らないうちに、感情のままにおときの髪を掴む男の腕を刀の峰で強く打ち据えた。
「ぐぁ!」
男が一瞬ひるんだ隙に、斉藤はおときの身体を抱き留めた。
「おとき、すまない。俺がもっと早く来ていれば……」
おときが鈴蘭のかんざしに合わせて選んだであろう着物は、男の暴力によって少し汚れており、きちんとまとめられた長い髪は乱れ、涙に濡れた顔は青ざめていた。
(可哀想に……どんなに怖かっただろうか……)
斉藤はたまらなくなっておときを確かめるように抱きしめた。
「……クッソ……その女がお前の何だってんだよ!そんなムキになって……」
「……おときは俺の恋人だ」
男の問いに、斉藤は間髪入れず答えた。
(……ッ!はじめさん……)
豹魔はその言葉を聞き、一瞬きょとんとした。
それから、喉の奥を鳴らすように笑い出す。
「がっはっは!何を言い出すかと思えば!己の恋人だってか!?一瞬で人が死んでいくこの京都で!?そんな綺麗事を言ったところで、この現世が渡れると思ってんのかよ!」
豹魔は煽るように斉藤を睨みつける。
「女なんか吐いて捨てるほどいるこの現世で!力のある奴が好きにする。それが世の中ってもんだろうが!」
「痴れ者め……」
『女なんか吐いて捨てるほどいる』
豹魔の生きてきた世界では確かにそうだっただろう。
だがおときは違う。
(おときは俺にとって何よりもかけがえのない存在だ。替えの効かない、この現世でただ一人の……)
斉藤は腕の中のおときに目を向ける。
その瞳はひどく優しいもので。
『一瞬で人が死んでいくこの京都で』
斉藤も一時期は、そう思っていた。
だが今は違う。
「……一瞬で人が死んでいく現世だからこそ、守りたいのだ」
まっさらで純粋な、まるで真っ白な鈴蘭のように。
世間知らずのお嬢様。
守ると誓ったのだ。このーー
『はじめさん!』
斉藤の名を呼んで、鈴蘭のかんざしを翻すおときの姿が脳裏によぎる。
この純粋なおときをーー
第三十九章から、私の大好きな斉藤さん編という事で気合いと感情が入りまくってます。
シリアスな雰囲気が続いてすみません。
最後まで読んで頂きありがとうございました。




