おときに触れるな
ついに対面した豹魔と斉藤。
豹魔は一瞬で斉藤が只者ではないと気付く。
大柄な豹魔の懐に、音もなく入り込んだ斉藤。
その刀の切っ先は、豹魔の喉元にぴたりと据えられていた。
「……動くな」
低く、抑揚のない声。
豹魔は思わず息を呑んだ。
ほんのわずかでも身じろぎすれば、喉を貫かれる。
身体が本能的に悟っていた。
ーーこいつは、危険だ。
「……へっ」
しかし豹魔は、恐怖を隠すように口元を歪めた。
「ずいぶんと物騒な挨拶じゃねぇか。女ひとりに、そこまで必死になるとはなァ」
「……その手を離せと言ったはずだ」
斉藤の視線が、豹魔の手に向けられる。その手はまだ、おときの髪を掴んでいた。
「おっと、そうだったな」
わざとらしく笑いながら、豹魔はおときの髪を引く手に力を込めた。
「だがよォ、せっかく面白くなってきたところなんだ。もう少し遊ばせてもらってもいいだろ?」
豹魔は斉藤の目の前でおときの顔に自分の下卑た顔を近づける。
どうやらおときが抵抗できないのをいいことに、接吻するつもりのようだ。
「なっ……」
斉藤は仕事柄、豹魔のような無法者には何度か会ったことがあるが、今回は違う。
目の前の男はキスをしようとしている。
ーーしかも自分の大切な女に。
(やめろ、おときに触れるな!)
「……その手でおときに触れるな……」
斉藤の瞳の奥に宿るものがさらに冷たくなり、豹魔は思わずおときから顔を離した。
「おいおい、そんな怖い顔すんなよ。俺はこの女が気に入っただけだぜ?それとも何か?この女はお前のもんか?」
斉藤は目の前で豹魔に髪を掴まれているおときを見る。顔は青ざめ、その瞳には涙が浮かんでいる。
「おとき……!!」
思わず斉藤がおときの名を叫んだ。おときは涙を浮かべながらこちらを見る。
(はじめさん……)
色を失った唇は確かに斉藤の名を紡いでいた。
さっさと離せよこの野郎!て永倉なら言ってぶん殴ってるところですが斉藤さんは慎重に様子を伺っています。
最後まで読んで頂きありがとうございました。




