敏姫を守る強さ
長い廊下の向こうから声がした。その声は敏姫が今一番聞きたかった声で……
長い廊下の向こうから声がした。
その声の主は、松平容保その人だった。
「殿!」
敏姫はパッと花が咲いたような笑顔になってーー
「敏……!」
ぽすん、と軽い音を立てて敏姫は容保の体に身を預ける。
「敏……大事ないか?沖田、敏に何を……」
遠くから見た容保の目には、敏姫が一方的に沖田に許しを乞う姿に見えていたに違いない。
「いいえ、殿。なんでもないんです」
すかさず敏姫が割って入る。
「だがーー」
「忍び足を、沖田さんに習っていただけなんですよ」
ね、沖田さん?
と顔を挙げる敏姫。
忍び足でお辞儀など聞いたことがない。それでも敏姫は真剣で。
容保の着物の裾を握る手がわずかに震えていた。
その手は何かに縋るようで、何かを願っていて。
容保はそれまでの感情がスーッと引いていくのを感じた。
(……敏は守りたいのだな、沖田を……)
「沖田、しばらく敏と二人にしてくれないか」
そう言って容保は沖田を見つめる。
その視線は睨むでもなく、だが静かな怒りを孕んでいた。
「……ッ……」
容保のこんな姿は初めて見た。
武力では沖田の方が強いのは明白なのに、抗えない別の強さが容保にはあった。
ーー敏姫を、守る強さ……
沖田は言いたい言葉をグッと喉に押し込み、立ち去る他なかった。
「……敏、」
容保はぎゅう、とその小さな体を抱きしめる。小さくてほんの少し力を入れたら折れてしまいそうだ。
でも、今は敏姫を抱きしめていたいのだ。
抱きしめて、敏姫がいることを確かめて。
「……はぁ……敏、何故沖田に許しを乞うていたのだ?」
「……許しを乞うていたのではありませんわ。頼んでいただけなの」
「……何を?」
「忍び足ですわ!」
「はぁ〜……またそのような嘘を……」
「殿、沖田さんは悪い方ではありませんわ。ただ人との距離感がちょっとわからないだけ。でも熊さん二人も、同じようなものでしょう?」
敏姫にそう言われて、容保は斎藤一と永倉新八のことを思い出した。
(まあ確かに、あの二人も人との距離感や、感情を読み取ることが得意ではないな……)
「…………ああ」
参ったな。うまくはぐらかされてしまった。
でもーーいいか。
敏が笑っていればそれで……
容保はそっと敏姫の頬に唇を寄せた。
「……殿ったら//」
「……このくらいは許せ」
敏姫は容保の腕の中でこの上ない幸せを感じていた。
つい先日までは、感じる事のできなかった容保のぬくもり、匂い、感触。
殿、殿には敏の気持ちはわかるでしょうか?
どんなに広いお屋敷でも、どんなに美しいお庭を見ても……殿の腕の中が、敏にとっては何よりの……
容保様優しい…泣
最後まで読んで頂きありがとうございました。




