敏姫の孤独
沖田に「あんたを見ているとイライラする」と言われた敏姫は、姿勢を正して自分のことを話す。
人の感情の機微には敏感……言われたことがあります。
病で伏せっていた時も、同情の声と同時に、疑問に思う声も聞こえて来ました。
ご正室がこのようでは、跡継ぎは望めないだとか。
容保様には一刻も早くご側室をだとか。
私が話せないのをいいことに、好き勝手言う人もいて。
だから、いつのまにか私は……人の顔を、表情を、その人が何を考えているかを。無意識のうちに探るようになったのです。
「…………」
沖田は何も言わない。
「でも、一番心に響いたのは……やはり殿のことでした」
世継ぎも産めないまま、殿を置いていく苦しみ。
あとに残された殿の悲しみを思うと……私の胸は病以上に痛みました。
政略結婚ではありましたが、殿は驚くほど優しい方だったんです。
病がうつるかもしれないのを気にもとめず、暇を見つけては見舞いに来てくれたのです。
敏にはそれが……それが一番嬉しかったのです。
「お気を悪くされたなら謝ります。でもこれは全て私の性分なのです」
とっくに無くしていたはずのこの命……奇跡と呼ぶにはあまりにも軽すぎる。
「どうか、敏は一度死んだと思って……許してはくださらないですか?私がもう一度生き直すことを」
隙だらけと言われてもいい。
イライラさせるのもわかっています。
ただ私は『当たり前』を、取り戻したいのです。
「……」
何も言わない沖田に向けて、敏姫はお辞儀をした。
「…………なんだそれ、そんなこと聞いてない。あんたの病がそんなにひどかったなんてこと近藤先生からひとことも……」
沖田が所在なさそうに首の後ろをいじる。
「僕は別に、姫様が生きてて嫌だとか思ったことはねぇ……あんたが……あんまりにも平然としているから」
(僕はただ、どこまでやったら、僕を怖がってくれるかと思っただけで……)
沖田は少し混乱したように前髪をぐしゃぐしゃとした。
「……沖田さんの気持ち、なんとなくわかります」
「……は?」
「私も病に伏していた時、孤独でしたから……」
「……ッ!」
「でも私は沖田さんとは違う。生きたいんです。心を込めて……今あるこの命を楽しみたいのです」
顔を挙げた敏姫の黒い目が、沖田の双眸を捕える。真っ直ぐに見つめるそれに、沖田は耐えきれなかった。
(な……なんだこの女……)
「沖田さんの心は閉ざしたままでいいです。でも私の心は変わりません。生き直すことを許してください」
そう言って敏姫がもう一度頭を下げた時ーー
「……何をやっている……」
長い廊下の向こうから声がした。
最後まで読んで頂きありがとうございました。




