豹魔とおとき・ついに対面
斉藤は三条へと朱理を走らせていた。
一方、ついに虎之助の兄黒崎豹魔はおときに話しかけていた。
いつも冷静で、どんな状況でも表情を変えない斉藤一。
その彼が、今はただ一人の女性の無事を願い、少しでも早くそのもとへ辿り着こうとしている。
(無事でいてくれ、おときーー)
斉藤の脳裏を、鈴蘭のかんざしを着けて嬉しそうに微笑むおときの姿が過ぎる。
「…………ッ……」
手綱を握る手に再び力がこもる。
「おとき……」
ただ、無事でいてほしい。
もう一度、あの微笑みを見せてほしい。
『はじめさん』
夏の風鈴のような涼やかなおときの声が聞こえたような気がした。
あの声で、もう一度自分の名を呼んでほしい。
「……おとき……」
誰にも聞こえないほど小さく、斉藤はもう一度その名を呼んだ。
朱理の蹄が、三条へと続く道を駆け抜けていく。
(……おとき……俺の……)
ただ、愛しい人が待つ場所へ、一刻も早く辿り着くことだけを考えていた。
* * *
京都・三条の茶屋の前にてーー
「どれにしようかなぁ〜?こっちも美味しそう!ああでもこっちも綺麗!迷っちゃうなぁ」
「お嬢さん、何を迷っているんだい?」
「えっ?」
おときが目を向けた先には、長いボサボサの赤毛をまとめることもなく、いつ洗ったのかわからない黒い着流しを身にまとった、古傷だらけの大男。
赤茶色の瞳だけがギラギラと嫌な光を放つ、見るからに普通じゃない男が立っていた。
おときさんはお嬢様育ちなので豹魔のような身なりの男には会ったことがありません。
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