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もう一度、あなたと。  作者: 杉野仁美
第四十章・迫る危機・黒崎豹魔

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寡黙な男の焦燥

土方に諌められ、少し落ち着いたように見えた斉藤。

だがその心の内は嵐が吹き荒れていた。

 屯所の外へ出ると、椿はすでに朱理を連れてきていた。


「朱理。頼めるかしら?私の友達のピンチなの」


「ヒヒィン」


 朱理はわかったというかのように一度嘶いた。朱理は自分が信用できる者しかその背に乗せたことがない。なかなか癖のある名馬だ。


 だが、目の前にいる椿の硬い表情。何も言わずに頷く土方。

 そして何より斉藤のものものしい姿を見て、朱理は何かを感じたかのように鼻を鳴らした。


「朱理、お利口さんね。三条まで頼めるかしら?」


 朱理は何も言わず、その背を椿と斉藤に向けた。

「いいから乗れ」と言わんばかりに。


「はじめ、きっとおときさんは大丈夫だ」


 土方が斉藤を安心させるかのように言うが、今の斉藤には何の励みにもならない。


 斉藤と椿を乗せ、朱理は地を蹴った。蹄の音が、壬生の道に響き渡る。

 

 斉藤は手綱を握り、朱理の進む先を見据えていた。


 ――おとき。


 頭の中に浮かぶのは、ただ一人の姿だった。

 鈴蘭のかんざしを嬉しそうに眺めていた顔。

 初めて自分を「はじめさん」と呼んでくれた、あの声。

 自分の気持ちを伝えたとき、涙を浮かべながら笑ってくれた表情。

 あのかんざしを着けて、今ごろ何をしているのだろう。


 茶屋で菓子でも選んでいるのか。


 それとも、道に迷って困っているのか。


 ……あるいは。


 斉藤の指が、手綱を強く握り込んだ。


 おときは小柄で、お嬢様育ちで、世間知らずで、綺麗な物や可愛い物が好きで。


 ーーそして、誰かを簡単に信じてしまうところがある。


 その考えが脳裏をよぎるたび、胸の奥がひどく冷たくなる。


「……急ぐぞ」


 斉藤は朱理の首を軽く叩いた。

 

 朱理は斉藤の焦燥を感じ取ったかのように、さらに速度を上げる。

 

 風が頬を打ち、道端の景色が後方へ流れていく。


 椿は何も言わず斉藤の様子を見ていた。


 斉藤も何も言わない。


 けれどその肩には力が入り、手綱を握る指は白くなるほど強張っている。


 いつも冷静で、どんな状況でも表情を変えない斉藤一。

 その彼が、今はただ一人の女性の無事を願い、少しでも早くそのもとへ辿り着こうとしている。


(無事でいてくれ、おときーー)


斉藤さん、朱理、間に合え〜!


最後まで読んで頂きありがとうございました。

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