僕を恐れて欲しい。
その日の夜、壬生の屯所にて。
その日の夜ーー壬生の屯所、その一室で。
「近藤先生〜♪」
新撰組局長、近藤勇の部屋に沖田が遠慮もなく顔を出した。
「……総司か?こんな夜中に珍しいな」
近藤は容保に提出する書状をしたためている最中だった。
「……その書状、容保様にですか?」
「ああ、容保様と我らはまだここに来て浅いからな。隊士の様子を詳細にしなければ」
「……容保様といえば今日、敏姫様にお会いしましたよ」
「えっ!?か、容保様じゃなくてご正室に!?」
近藤は書物をひっくり返さんばかりに驚いた。
「僕は容保様には何度も会った事があるし、それに姫様の方が、これから面白いことがたくさんありそうだし」
「……総司お前、また何か企んでおるな?」
その時近藤が何かに気づいたかのように目を見開いた。
「あー!あの二人が敏姫様の護衛になったからか!」
あの二人とは斎藤一、永倉新八のことだ。
この度、松平容保のおぼえめでたく容保様と、ご正室の敏姫様の護衛に任命された。
「ははは、企むなんてそんな人聞きの悪い。何も考えてませんよ」
近藤は書きかけの書状をそのままに筆を置き、ため息を吐いた。
「どうかな……お前がそのように楽しそうにしておる時は大体ろくな事がないからなぁ」
「楽しかったですよ。とっても……」
沖田がくつくつと笑う。
「あの姫様、危機感がまるでないんです」
「……」
近藤の書類をまとめていた手が止まり、沖田の方をじぃ、と見た。
「……少し見てみたくなりました。あの姫様が、どこまで怖がらないかを」
「ほら、やはり企んでるじゃないか……はぁ……」
近藤はもう一度ため息を吐き、頭を抱えた。
「いいか?お前が何を企んでいるか知らないが、俺たちの主君のご正室だぞ。つい最近までご病気で伏せっていたのだ」
「……それが?」
沖田はそれがどうしたと言わんばかりに肩をすくめる。
「……あのお方、敏姫様は回復したとはいえ……また床に伏せる可能性もないとは言えん。無理はさせないように気をつけねばいかん。もしご無理をさせて何かあったらーー」
「……僕と話した時は元気そうでしたけど?」
そればかりか……
【沖田さんも。私を守るためにいるのだと殿は仰ってくださいました】
あの純粋な言葉。純粋な黒い瞳。他人を信じて疑わない態度……
「ものすごく元気に見えましたけどねぇ」
沖田はそう言ってまたくつくつと笑った。
「……そうなのか?俺はてっきりお前の殺気に当てられて倒れていると思ったが……」
沖田が少しムッとした様子で目を細めた。
「殺気とはまた人聞きの悪い。まあ姫様の側近の女の方は警戒してましたけどねぇ」
でもあの側近の女、姫様を守ろうとする姿勢は固かったな。
明らかに怯えているのに逃げようとしなかった。
よほど忠義が厚いんだろう。
「ほらな、お前は初対面の相手にも遠慮がない。殺気が隠しきれてないんだ。気を付けろよ」
とめがあの時感じたただの盗人には出せない違和感の正体は、どうやらこういう事だったらしい。
「……変な事したらすぐ書状に書くからな!」
「はい♪」
沖田は心底楽しそうに、新しいおもちゃを見つけた子どものように笑った。
(楽しませていただきますよ。一体何をしたら、あのお姫様は僕を怖がってくれるのだろう……)
考えるだけで、わくわくしてくるな。
最後まで読んで頂きありがとうございました。




