確実に起きていた『何か』
いつのまにか不穏な影はいなくなっていたが、それが何者なのかわからないまま、とめは黒谷の屋敷に戻って来た。敏姫だけは相変わらず楽しそうだ。
姫様だけが満足して屋敷へ戻ると。
「殿!」
姫様が容保様にぱっと駆け寄る。
「今日は街でこんな素敵なお菓子を見つけましたの!」
満面の笑みを浮かべて、容保様の着物の裾をそっとつまむ。
それを見て、容保様の表情が柔らかくなる。
「……そうか」
「とても楽しかったですわ!」
「それはよかった」
お二人のやりとりの後ろで……私は、そっと壁に寄りかかった。
(……生きて帰ってきた……)
「はぁ〜〜〜〜……」
思わず深いため息が漏れる。
ふと横を見ると。
「……」
斎藤はいつも通りを装っているようだが、その特徴的な羽織りが僅かに肩からずり落ちているように見えた。
「いや〜今日はいい仕事したなぁ!」
永倉もいつも通り笑っているが……
(絶対何かあったよね!?二人は隠してるけどさ!)
その時。
「……世話をかけたな」
容保様が困ったように眉根を下げて静かに言った。
二人は顔を上げる。
「いや!これくらい朝飯前ですよ!」
「……問題ありません」
答える声は、いつも通りで。
でも私は知っている。
(絶対『朝飯前』じゃなかったはず……)
あの時の背後から感じたじっとりと嫌な間。斉藤と永倉の言葉。
(斉藤の『動くな』永倉の『姫様に近付くな』)
私達の背後で、確実に“何か”が起きていた。一体何がーー
私がごちゃごちゃ考えていると。
ふと、姫様の笑い声が聞こえた。
無邪気で、明るくて。
何も知らない笑顔。
その眩しい笑顔に、私はさっきまでの不安や心配が吹き飛んでいくのを感じた。
(……姫様がご無事なら、まあいいか)
私は小さく息を吐いた。
(……次はもう少し穏やかな日になりますように……)
いや、多分ならないけど。
姫様よかったですね。私もとめと同じ気持ちです。
最後まで読んで頂きありがとうございました。




