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もう一度、あなたと。  作者: 杉野仁美
第三章 不穏な影

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確実に起きていた『何か』

いつのまにか不穏な影はいなくなっていたが、それが何者なのかわからないまま、とめは黒谷の屋敷に戻って来た。敏姫だけは相変わらず楽しそうだ。

 姫様だけが満足して屋敷へ戻ると。


「殿!」


 姫様が容保様にぱっと駆け寄る。


「今日は街でこんな素敵なお菓子を見つけましたの!」


 満面の笑みを浮かべて、容保様の着物の裾をそっとつまむ。


 それを見て、容保様の表情が柔らかくなる。


「……そうか」


「とても楽しかったですわ!」


「それはよかった」


 お二人のやりとりの後ろで……私は、そっと壁に寄りかかった。


(……生きて帰ってきた……)


「はぁ〜〜〜〜……」


 思わず深いため息が漏れる。


 ふと横を見ると。


「……」


 斎藤はいつも通りを装っているようだが、その特徴的な羽織りが僅かに肩からずり落ちているように見えた。


「いや〜今日はいい仕事したなぁ!」


 永倉もいつも通り笑っているが……


(絶対何かあったよね!?二人は隠してるけどさ!)


 その時。


「……世話をかけたな」


 容保様が困ったように眉根を下げて静かに言った。


 二人は顔を上げる。


「いや!これくらい朝飯前ですよ!」


「……問題ありません」


 答える声は、いつも通りで。


 でも私は知っている。


(絶対『朝飯前』じゃなかったはず……)


 あの時の背後から感じたじっとりと嫌な間。斉藤と永倉の言葉。


(斉藤の『動くな』永倉の『姫様に近付くな』)


 私達の背後で、確実に“何か”が起きていた。一体何がーー


 私がごちゃごちゃ考えていると。

 ふと、姫様の笑い声が聞こえた。


 無邪気で、明るくて。


 何も知らない笑顔。


 その眩しい笑顔に、私はさっきまでの不安や心配が吹き飛んでいくのを感じた。


(……姫様がご無事なら、まあいいか)


 私は小さく息を吐いた。


(……次はもう少し穏やかな日になりますように……)


 いや、多分ならないけど。

姫様よかったですね。私もとめと同じ気持ちです。


最後まで読んで頂きありがとうございました。

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