何者かの気配
その特徴的な羽織りと大きな体で無意識に周りの目を遠ざけていた熊二人と、その間で無邪気に買い物を楽しむ敏姫。
そこへ不穏な影が近付いて来て……
人の往来の中に、妙な『間』があった。この『間』には覚えがある。幼い頃に感じた、じっとりと嫌な間だ。
「……新八」
低い声が、短く落ちた。
「……ああ」
その短い一言で、永倉の空気が変わる。先程までの陽気な雰囲気とは違う、張り詰めた糸のような……
その空気感に、私は心臓が一気に速くなるのを感じた。
と。そこへーー
「とめ!見てください!あのお菓子、前に殿が買ってくださったものに似ていますわ!」
ええ〜!!??ひ、姫様だけこの空気感をもろともしてない!?
「これ、とても美味しそうですわ」
見て、と言って姫様が指を指す先にはとても綺麗な練り菓子があった。
「えっ、ええ……そうですね。とても綺麗で……」
話しながら私は背後で走る緊張感に押しつぶされそうだった。
ーー私達の背後で何かが起きている。
「あっ、これも美味しそう!殿に似合いそうね!」
きゃっきゃとはしゃぐ姫様の背後でーー
「……動くな」
低い声が、すっと落ちた。
私は振り返れなかった。
振り返ってはいけない気がした。
ただ、空気だけでわかる。ーー何かが、起きている。
「……何者だか知らねえが」
今度は永倉の声。その声はいつもより低く、鋭い。
「……姫様に近付くな」
ぞく……
永倉の声は私に向けられたものでもないのに、背中に冷たいものが落ちる。
やはり何かが起きてる!
「とめ、どちらにしようかしら?こちらと、こちら……」
一方の姫様はというと、怪しい気配もどこ吹く風で、目の前のお菓子に夢中である。
ある意味私はホッとした。きっと姫様はこの気配に気付いたら卒倒するだろう。それほどの空気を背後で感じる!
(お願いだから今だけは気づかないでください!!)
やがてーー
それは一瞬のことだったのだろうか?それとも数刻のことだったのだろうか?
「……行け」
斎藤の声がして、気配がすっと消える。
先程まで張り詰めていた空気が、嘘のように緩んだ。
「姫様、いいもんは見つかりましたか?」
永倉が、何事もなかったかのように戻ってきた。
(えっ?この人、さっきと同じ人だよね……?元に戻ってる?)
「決めましたわ!こちらにします!」
「いいですねえ!」
「……」
斎藤は何も言わない。
だが、その目は周囲を見ていた。
(……終わったの?今のは一体何?)
聞けるはずもなく。
私はただ、何事もなかった顔をするしかなかった。
幕末期の京都は治安がものすごく悪く、その対策として新撰組が結成されたんですが、安心してください。このIFの物語では刀は出てきますが物騒なことは何も起こりません。
最後まで読んで頂きありがとうございました。




