永倉新八、号泣。
容保から敏姫の話を聞いていた永倉と斉藤はやがて……
容保はしばらく二人を見ていたが。やがて、ふっと息をついた。
「……だが」
空気が、わずかに緩む。
「敏が楽しんでいたのも、また事実だ」
永倉が、そっと顔を上げる。
斎藤も、視線を戻した。
「……あの者は、今まで多くを知らずに生きてきた」
容保の視線が、庭の向こうへ向けられる。
「花も、街も、菓子も……」
容保の目が細められる。まるで先程までいた敏姫の影を追うように。
「……そして、そなたらのような者もな」
容保が困ったように微笑む。
「……殿」
永倉が思わず声を上げた。
「だからこそ」
容保は二人に向き直る。
「これからも敏と、関わってくれないか?」
「……え?」
「それが、そなた達に対する処遇だ」
「えっ?マジで?」
容保の思いもよらない提案に、先程まで姿勢をただして聞いていた永倉が素に戻る。
「永倉、殿の御前だぞ!」
斉藤が思わず口を開いた。
「……だが、加減は知れ」
「……」
「遊びでも、命に関わることはある」
容保の口調は相変わらず穏やかだったが、その言葉にははっきりとした線が引かれていた。
「……承知しました。その任、謹んでお受けします」
斉藤がまた深々と礼をする。
「そなたらが姫の側にいれば、いかに過激な志士達であろうとも尻尾を巻いて逃げるだろう」
ふと一呼吸置いて、容保がゆっくりと話し始めた。
今度は一転して容保の表情が柔らかくなり、その語り口がほのかに優しくなった。
「そして……時々でいい。姫のやりたいことをやらせてくれ。剣の稽古、護身術など……」
「……護身術、ですか?あの姫様が……?」
永倉の言葉に容保は肩をすくめた。
「……敏姫はやりたいのだ。……というか、今の敏姫は何にでも興味を持っておる。私は敏姫がやりたいことは、なるべくさせてやりたい」
生きること、食べること、見ること、味わうこと、楽しいこと、そして……笑うこと。
敏姫には笑っていてほしい。
「……妙だな。つい最近までは、このような望みを持つ事はなかったのに」
敏姫が私を変えてくれたのかもな、と容保が振り返った時。
「お、俺!やります!やらせてください。俺にできる範囲の事なら全部!」
永倉は目に涙を溜めていた。いや、それどころではない。
号泣していた。
「だって……姫様の事情を聞いたら、ぐすっ、俺、おれ、何かしてやりたいんだよぉ〜!!」
「永倉……しっかりしろ。御前だぞ……」
とか言いながら斉藤も、目が赤くなっていた。
「……頼んだぞ……」
容保はそう言ってその場から立ち去った。
浪士達に釣られて泣きそうになるのを隠して。
残された斉藤は、いつまでも泣く永倉を宥めるのが大変だったという……
容保様達は京都に身を寄せていますがこの物語では史実ほど治安は悪くないです。
最後まで読んで頂きありがとうございました。




