理性で抑えてきた獣
霧島と対面した永倉は、話し合いをする気などハナからなかった。
(……ははは……)
霧島の目の前にいるのは獣だ。
しかも理性で抑え込まれていた類の獣。
普段は陽気に笑い、酒を飲み、馬鹿をやる男。
だからこそ恐ろしい。
本気で怒った時、何をするかわからない。
「……ッ!」
霧島は反射的に刀を抜いた。
ギィン!!
瞬間。
永倉の刀が、霧島の刀を真横から叩き潰すように弾いた。
「ぐッ!?」
重い。
ただ速いだけじゃない。
腕ごと砕かれるような圧。
霧島は後方へ飛び退く。
床板がバキリと割れた。
「は、はは……っ、永倉くん、本当に怒ってるんだねぇ!」
「当たり前だろうが」
永倉が一歩踏み出す。
ドン。
その一歩だけで、本堂の空気が震えた。
「俺ァなぁ……」
ギリ、と永倉が刀を握る。
「……あいつが台所で笑ってんのが、唯一の癒しだったんだよ!」
殺伐とした新撰組の中で。
常に死と隣り合わせの世界で。
「…………」
「腹ァ空かせた隊士どもに飯食わせてよぉ、菓子作って、うまく作れた時には笑って見せてくれて」
永倉の脳裏に、小太郎の顔が浮かぶ。
泥だらけの顔。
前髪で隠れた瞳。
菓子がうまく作れた時の、嬉しそうに笑う姿。
【兄さん、これ味見してください】
【兄さん、今日は桔梗の菓子なんです】
【兄さんの前だけですよ】
「……あいつは、この血生臭ぇ屯所で」
永倉の目が細くなる。
「唯一、普通の夢見てた奴なんだよ」
ゾワッ!!
霧島の背筋を悪寒が走る。
(来る!!)
霧島は咄嗟に踏み込んだ。
「うおおおおッ!!」
斬撃。連撃。
ーー速い。
常人なら見えないほどの剣速。
だが。
ガン!!
永倉は片手で受け止めた。
「な……ッ!?」
「軽ぃな」
次の瞬間。
永倉の拳が霧島の腹へめり込んだ。
ゴッッ!!
「がはッ!!」
霧島の体が吹き飛び、本堂の柱へ叩きつけられる。
ミシミシと柱が軋んだ。
永倉の小太郎への想いが書けてよかったです。
最後まで読んで頂きありがとうございました。




